167「学校の違い」クランリーテ


「ホシュン・ヘルメイです。よろしくお願いしまッス!」


 翌日。本人が言っていた通り、ホシュンは一組に転校してきた。

 珍しいアカサからの転校生ということで注目を集め、休み時間になるとクラスメイトに囲まれていた。



「アカサの最北端の街から来たッス。結構大きいところなんですよ~」

「向こうはやっぱり寒いッスね~。むしろこっちはまだ暖かくてびっくりしました」

「寮に入ったッス。同じ寮の人がいたら仲良くして欲しいッス」

「にゃはは、全然しっかりしてないッスよ。不安も多いですからね~」

「アカサは冒険科に力を入れていて、ターヤ王国に比べると属性魔法科はほどほどッス。だから授業についていけるか不安なんですよ~」



 すごい、一人一人の質問に丁寧に答えて、あっと言う間にクラスに溶け込んでいった……。


 ただ、最後に言っていたアカサの属性魔法科に関しては。

 どうやら本当にほどほどだったらしく、その日の授業で魔法を教わる度に、


「もうこんな魔法までやってるんですか!? さっすがターヤ王国ッス! レベルが高い!」


 と、驚いて……不安どころか、感動しっぱなしだった。

 ホシュン自身の魔法もやっぱりほどほど、クラスの平均を下回るかもしれない、というところだった。

 だけどそれで落ち込むこともなく、嬉しそうにしているから向上心はありそうだ。


 その一方で、


「ふーっ! 久々に全力で走ったッス」

「は、速い! ホシュンさん、100メートル走、クラスでダントツトップよ」


 次の体育の時間(基礎体力を身に付けるという理由で義務付けられた運動の授業。私もアイリンもあまり得意じゃない)で、身体能力の高さを披露し先生やみんなを驚かせた。


「昔から足は速いって言われてたッスよ。あ、バク転とかもできますよ?」

「やってやって、ホシュンちゃん!」

「わかりましたッス! いきますよ~」


 小さい身体が猫のようにぴょんぴょん飛び跳ねる。

 運動神経いいんだなぁ……まるでチルトみたいだ。


「わ~!! ホシュンちゃんすごい!」


 ていうか、いつの間にかホシュンを囲む輪の中にアイリンが入ってる。

 私も近付いて、その隣りに並んだ。


「本当にすごいよホシュン。前の学校でも、属性魔法科だったんだよね?」

「あ、クランリーテさん。そうッスよ、属性魔法科でしたねー」

「それだけ動けたら冒険科でもいけそうだけど……」

「あっ、それわたしも思った!」


 私たちがそう言うと、ホシュンは驚いた顔を見せる。


「とんでもない! 冒険科の人たちに比べたらアタシなんて全然ッスよ! ……アカサの冒険科はすごいんですから」

「そ、そうなんだ。さすが本場……」


 ここの属性魔法科がレベル高いと言われるように。

 ターヤから見たアカサ王国の冒険科は、レベルが高いんだろうな。



「あの、クランリーテさん、アイリンさん。クラスのみんなに聞いたんですけど、未分類魔法の部活をやっているとか。昨日のみなさんが、そうなんッスね?」

「うんっ、そうだよ! あ、そういえば!」

「……昨日はそのへんの話、しなかったね」


 チルトは怪しんでいたけど、別に未分類魔法クラフト部のことを秘密にしたわけじゃない。

 自己紹介した後すぐに解散になって、部活の話までできなかっただけ。

 それよりも……。


「あのさ、ホシュン。クラスの人たち、私たちの部のこと話してたんだよね」

「はい! アイリンさんが部長をしていて、未分類魔法の研究をしているって聞いたッス!」

「えへへ、確かに部長だけどなんか照れちゃうな~」

「そこは胸を張ってよ」


 でも、そっか。

 二学期に入って色んなことがあり過ぎて、気付かなかったけど。

 猫アレルギーの薬の件から、クラスでの認知度が上がっている。

 それがちょっぴり嬉しかった。


「ターヤの学校で未分類魔法の研究って、ある意味すごいッスね~。反発とかあるんじゃないですか?」

「ま、まぁ……ね。色々と」


 ホシュン、そんなことまで知ってるんだ。

 属性魔法の国だから、国外からもそういう風に見られるのかな。

 さすがに否定派とかまでは知らないだろうけど。


「それでも研究を続けてるんですね? やっぱりすごいッスよ! クランリーテさん、アイリンさん!」


 ホシュンが目を輝かせて、私たちを見る。そして、


「お願いです。是非、部活見学をさせてほしいッス!」

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