クラフト25 転校生の秘密

166「通りすがりの転校生」クランリーテ


 ヒミナ先輩とフリル先輩から、研究室の話を詳しく聞いた後。

 わたしたちクラフト部は、そのまま中庭で話をしていた。

 部室に行けば良かったのに、それをしなかったから、



「にゃ、にゃはは……アタシはただの通りすがりッスよ~。お邪魔してゴメンなさい!」



 通りすがり(?)の女の子に、話を聞かれてしまった……っぽい。

 本人はなにも聞いていないと否定しているけど。


 ちなみにその子は、


「――転校生!?」

「そうッス。一組になるみたいなんで、一緒ならよろしくお願いするッスよ~」


 転校生。

 中学まではたまにいたけど、高校入ってからも転校とかあるんだ。


「とにかく、ちょっとこっちに来て。詳しい話を聞かせてもらうよー」

「本当になにも聞いてないッスよ~?」

「ボクは『そこにいるの誰?』としか言ってない。話を聞いたかどうかなんて、まだ訊いてないよー」

「ぎくっ。にゃはは……わかったッスよ」


 観念したのか、その子はチルトに腕を引っ張られて中庭に出る。

 ベンチに座ってもらって、正面にはチルトが立つ。


「チルト、なにもここまでしなくても」

「いいからいいから。ここはボクに任せてクラちゃん」

「……わかった」


 チルトにはなにか考えがあるみたいだ。私は大人しく引き下がる。


「まず名前、聞いていいかなー? それとどこから来たのかも」

「自己紹介ッスね? 名前はホシュン・ヘルメイ。アカサ王国の学校から転校してきたんですよ」

「へぇ~! アカサからなんだ!」

「はい! 本格的に属性魔法を学びたいと思って、飛び出して来たッス」

「と、飛び出して? まさか一人で?」

「もちろんです。寮に空きがあって助かったッスよ~」


 すごい行動力だ……。


「今日は手続きと、校舎の見学をしていたッス。そしたら、たまたま通りかかって……」

「話を聞いちゃったと?」

「……はいッス」


 やっぱり聞かれてたんだ。

 色んなことがあったから、ちょっとぼーっとしていた。

 でもそういう時こそ、気を付けなきゃいけなかったのに。

 私のせいだ……。


「それで? いったいどこから聞いてたのかなー?」

「いや~そんな、聞いたって言うほど聞いてないッスよ?」

「どこから聞いてたのかなー?」

「にゃ、にゃはは……カワイイ顔でコワイッス。アタシが聞いたのは、空に行く方法を見付けるとかって話をしているところですよ。いったいなんの話だろうって覗こうとしたら、見付かったッスよ~」


 もう最後の方だ。その続きは聞こえなかった?

 確かあの時、私は……。



『だからね、わたしたちがまず考えることは、空に行く方法! それを見付けよう!』

『アイリン……! そうだね、ナハマの遺跡じゃなくても――』



 ――空に行く方法があるかもしれない。


 チルトが遮ってくれなかったら、そこまで言ってしまっていた。

 さすがに『ナハマの遺跡』だけじゃ、結びつけられない……よね?


 あぁ……もう。聞こえていなかったと思いたい。



「なんか、聞いちゃいけないことを聞いてしまったみたいッスね?」

「いや、その……」

「にゃはは、大丈夫ッスよ。意味はわかんなかったし、誰にも言うなというなら、言いません。秘密は守りますから!」

「ホシュンちゃんっ、ほんと!? 助かるよ~ありがとう!」

「あ……ありがとう、ホシュン」

「にゃははは~。あ、そうそう、できればみなさんの名前も教えてくださいッス! お二人は、一組なんですよね?」

「うん! わたしはアイリン・アスフィールで――」


 クラフト部のみんなが、一人ずつ自己紹介をしていく。


 ……よかった。彼女、ホシュンは黙っていると言ってくれた。

 聞いていたのも最後の方を少しだけだったから、通話魔法とか、空に回路を書くとかは聞いていないみたいだ。

 ちょっと安心する。



「……チルト、ごめん。これからはもっと気を付けるよ」


 わたしはそっと、みんなに聞こえないようにチルトに耳打ちをする。だけど、


「…………」

「チルト……?」

「うーん、あの子、なんか怪しい気がするんだけどなー」

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