未分類魔法クラフト部【第四部完結】

１６５「最初の目標」クランリーテ

「いやー、ヒミナ先輩の天才っぷり全開って感じだったねー」

「そうね……しかもここにきて、成長までしてるわよ」

　話が終わり、ヒミナ先輩たちが帰っても、私たちは中庭に残っていた。

　みんな先輩の話に感じるところがあったのか、ベンチに座ったまま少しぼーっとしている。

　隣りに座ったアイリンが、小さなため息のあとにポツリと漏らす。

「先輩たちに先を越されちゃったな～」

「アイリン……？　先を越されたって、研究室欲しかったの？」

「う～ん、どうしても欲しいってわけじゃないんだけどね。でも、通話魔法のこと発表して、みんなで研究室がもらえたら……きっと、嬉しいと思う」

「……そうだね」

「だからね、先輩たちが研究室をもらったからって、別に関係ないはずなんだけど……なんでだろう？　先を越されちゃったって感じるんだ」

「…………」

　あんまりこういう話をしたことなかったけど。

　もしかしたらアイリンにも、先輩たちに対するライバル心とか、競争心が芽生え始めているのかも。

「ちょっと、なに二人して辛気くさいこと言ってるのよ」

「そうです。アイリンちゃんもクラリーも、忘れていませんか？　先輩たちは二年生で、私たちは一年生なんだよ」

「そうだけど……？」

「はぁ。ぼーっとし過ぎよ、クラリー。あたしたちが一年生の間に研究室をもらえばいいだけじゃない」

「あっ……」

「学校史上初、一年生で研究室を手に入れる。ヒミナ先輩の記録を更新するわ」

「そっか、そうだよクラリーちゃん！」

「うん……！」

　サキの言う通りだ。二年生になる前に研究室を手に入れれば、記録の上では先輩たちより早いことになる。

　でも、それでもちょっとだけ……。

「ふふーん。もっといいこと教えてあげよっかー？」

「チルト？」

「実はねー、ヒミナ先輩たち、まだ研究室は無いんだよ」

「えぇ……？　まだ無い、って？」

「ちょっと、どういう意味よチル」

「研究室がもらえることは決定したけど、まだ部屋をどこにするか決まってなくて、正式に貰えるのは先輩たちが三年に上がってからなんだって」

「そ、そうなの！？」

「まー部屋が無いってだけで、研究者にはなるんだけどさー。気持ち的にね、クラちゃん？」

「あはは……さすが、チルト」

　そう、気持ち的に。

　やっぱり先を越された気分だったから。

　まだ部屋が貰えたわけではないというのは、ちょっぴり救いになる。

　それこそ、気持ち的に。

「そっか～。じゃあやっぱり、完成を急がないといけないね」

「そういうことだね、アイリン」

　アイリンは、よしっ、と気合いを入れてから立ち上がり、私たちの方を向く。

「あのね、みんな。魔法の完成には、空に回路を書く必要があるって、話したでしょ？」

「うん、方法はまだ全然思いつかないけど……」

「それなんだけどね。やっぱり行くしかないと思うんだ」

「……行く？」

　アイリンは腕を真っ直ぐ上げて、ピッと指をさす。

「空にだよ！　空に行って、マナに触れてみないと何も始められない」

「で、でも、どうやって？」

　例の空の研究室からは、外に出られない。

　壁を破壊する案も出たけれど、いかんせん浮いている仕組みがわからず、なにが起こるかわからない（最悪、落下する）ため、却下された。

「だからね、わたしたちがまず考えることは、空に行く方法！　それを見付けよう！」

「アイリン……！　そうだね、ナハマの遺跡じゃなくても――」

「――待った！　クラちゃん！！」

　突然、チルトの大きな声に遮られる。

「そこにいるの、誰？」

　全員の視線が、校舎の入口に集まる。

　あ……一瞬、スカートの裾が見えた。

　しまった、本当にぼーっとしていたみたいだ。

　今の話、聞かれた？

「にゃ、にゃはは……アタシはただの通りすがりッスよ～。お邪魔してゴメンなさい！」

　そんな声が聞こえ、立ち去ろうとする気配。

　まずい、止めないと――と、思った時にはすでに校舎に飛び込んでいるチルトの姿。

　私たちも慌てて追いかけると、

「放してくださいよ～。なにも聞いてないッスよ～！」

「んー、ますます放すわけにはいかなくなったなー」

　背の低い女の子が、チルトに腕を掴まれていた。

　たぶんナナシュと同じくらい。外ハネのショートカットで、黒髪の女の子。ちょっと猫っぽい感じのつり目。

　うちの制服を着ているし、私たちと同じ一年生だと思う。

「見ない顔だねー。どこのクラス？」

「一年一組ッスよ」

「えぇ？　私たちのクラス？」

「本当に一組？　わたしたち一組だけど、見たことないよ～」

「にゃはは、それは当然ッスよ。アタシは明日からここに通う転校生ッス」

　明日から……通う……。

「――転校生！？」

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