163「四つの箱の問題点」クランリーテ
「じゃ、みんな集まったところで。昼休みの話の続きをしようか」
昼休みじゃ話しきれない。ということで、放課後にまた中庭に集まって、話の続きをすることになった。
フリル先輩が切り出すと、アイリンが首を傾げて、
「えっと、四つの箱に問題点があるって話だったよね?」
「クラちゃんとサキはそれに気付いてるんだっけ」
「なんとなく」
「練習しているうちに、薄々ね」
「はぅ、私はまだイメージを一つに、というのができなくて。問題点はわかりません……」
「だいじょうぶ、わたしもわからないよナナシュちゃん!」
「あはは、クラフト部の子は個性的だね。ま、難しいっていうのも、ある意味問題なんだけど」
「ふむ、わかればすぐできるものだと思っていたのだが」
「はいはい、ヒミナはちょーっと黙っててね。……クランリーテちゃん。あの時さ、わたしあっさりできちゃったでしょ?」
「……はい」
「でもね、あれってわたしが得意な土属性だったからなんだよ。結局、他の属性はできなかったんだ」
「あ……あたしもです! まだ、火属性しかできなくて。やっぱり先輩もそうなんですね」
「どういうことー? サキ。得意な属性でしかできないの?」
「チル、それは――」
「いやいやチルトちゃん、理論上はどの属性でもできるはずなんだよ」
「それでもできるできないの差が出るのは――単純に属性魔法の練度の問題。ということですよね? フリル先輩」
「そうだね。あとはサキちゃん、得意な属性って自分の中で大きな存在になってるところない?」
「はい! あたしの場合、火属性がそうです」
得意な属性……。
私は特別これというのが無いけど、魔法そのものが大きな存在になっているから、その感覚は少しわかる。
フリル先輩が説明を続ける。
「そういうのもあって、枠を取り払いやすいんだと思う。それに、得意属性ならできるはず! という心理が無意識に働いてるんじゃないかな」
「なるほど……。私がどの属性もできないのは」
「クランリーテちゃんの場合、全部の属性が満遍なくできちゃうからかもね」
「……はい」
「ふむ、そういうものなのか? ワタシも……いや、なんでもない」
黙っていてと言われたからか、ヒミナ先輩は途中で言葉を止めてしまう。
わかってる。満遍なくできるのなら、イメージの枠を越えて、どの属性でも一つにすることができるはず。そう言いたいんだろうし、私もそうだと思ってる。
それでもできないのは。他のことに集中しているからだ。
複数同時魔法。あれは、一つにするのとは真逆のことだ。
……あ、まずい。フリル先輩が訝しげな目で見てる。
バレるはずがないんだけど、たまに心を読んでるのかってくらい察しがいいから、気を付けないと。
複数同時魔法のことは、まだ誰にも、クラフト部のみんなにも話していない。
ちょっとだけ秘密にしておきたかった。
「……フリル先輩。とにかく、誰にでもできるわけじゃないってことですよね。サキみたいな属性魔法トップクラスでも、得意な属性でしかできない」
「なっ、ちょっとクラリー? トップクラスって!」
「え、だってそうでしょ? 火属性で一位取ったんだから」
「っ……そ、そうね。ふ、ふふふふ」
俯いてて表情が見えないけど、なんかヘンな笑い方をするサキ。どうしたんだろう。
「サキちゃん一位だったんだ? へぇ……。ちなみにわたしも土属性だけトップだったよ。おかげさまで」
「そうなんですか!?」
「おぉー、ヒミナ先輩負けちゃったんですかー?」
「ふっ……。当然の結果なのだろうね。フリルはもともと真ん中で収まるような器ではない。嬉しいよ、フリル。隣りに来てくれて」
「はいはい、その話はいいから」
あれ、珍しくフリル先輩が照れてる? 心なしか頬が赤い気がする。
一方その隣りで、サキとヒミナ先輩が顔を合わせる。
「よかったですね、ヒミナ先輩」
「ありがとう、サキ」
「はいはいはいはい、あーもう、話を戻しますよー。いいですかー?」
「あ、お願いします、フリル先輩」
パンパンと手を叩きながら、フリル先輩は無理矢理話を再開する。
「得意属性しかできないくらい難しい。問題点はそこじゃないんだ」
「……というと?」
「難しいのって、結局四つの箱のイメージ、刻まれた属性魔法の枠のせいでしょ?」
「そう、ですね。やっぱり、それが強いほど一つにするのは難しいはずです」
「じゃあ簡単にするにはどうしたらいいと思う?」
「簡単に……?」
「あーそっか、ボクわかった。最初からそんな枠を作らなきゃいいんだよ」
「さ、最初から? あ……」
そっか、なるほど。チルトの言う通りだ。枠が邪魔になるのなら、最初から作らなければいい。でも……。
フリル先輩は頷いて、
「じゃあ例えば。今の小学校や中学校で、やり方は置いといて、属性魔法の枠を作らないように教育します。取り込んだマナを100%すべて使った魔法が使えるようになりました。さて、どうなると思う?」
「ど、どうなるんだろう? わたし想像つかないよ~」
「大きい魔法がバンバン使えるんじゃないー?」
「待ってください、チルトちゃん。本当にそうかな……? 枠を作らないってことは、属性魔法のイメージをどうやって切り替えるんだろう?」
「んん? ナナちゃんどういう意味ー?」
「……そうね、ナナシュの言う通りだわ。チル、あたしたちは四属性の箱があるからこそ、属性を切り替えて色んな魔法が使えるの」
「そう、そこだよね。私も同じこと思ったよ。枠を作らないようにするって、属性魔法の基礎を学ばせないって言ってるようなものだから」
「ああー、それはなんかヤバそう」
私たちが結論に近付いていくと、フリル先輩が小さく笑う。
「ふふ、さすがだね~みんな。
小さいうちから四つの箱のことを教えて枠を作らないようにすれば、単純に大きな魔法は使えるようになるかもしれない。でも、先人たちが研鑽してきた、便利で多種多様な魔法が使えなくなる。生活に密接な魔法ほど繊細な魔法が多かったりするから」
「それだけなら、まだいい方なのさ」
そう言って、ヒミナ先輩が話を引き継ぐ。
「下手したら一つの属性しか使えなくなる。いや、最悪はどの属性も使えなくなるだろう」
「そんな……」
まさか、とは続けられなかった。
私もその可能性を感じてはいた。
属性の切り替えが上手くできなくなるだけじゃなく、四属性そのものをイメージできなくなるかもしれない。
最初は周りに手本となる使い手がいるからいいけど、将来的に減っていくわけで……。
「そうなっては属性魔法の発展に繋がらない。それどころか衰退を招いてしまう。ワタシの望む結果ではないね」
「基礎をしっかり学ぶ必要がある……ということですね」
「でもそれだと枠ができちゃうんだよねー? でも大きな魔法を使うには枠が邪魔。ちゃんとした魔法を使うには基礎が必要。
グルグル回っちゃうねー。そんなうまい話は無いってことかー」
「難儀な話ね……」
なるほど……。四つの箱の研究。
理論を見付けただけじゃ、終わりじゃなかった。むしろ始まり。
ヒミナ先輩の言う通り、考えることは山のようにあるみたいだ。
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