162「駆けつけて、問い詰めて」クランリーテ
「ヒミナ先輩! フリル先輩!!」
昼休みになって(午前中の授業はなにも頭に入ってこなかった)、私たちクラフト部は全員集合、ヒミナ先輩たちのもとに駆けつけた。
教室から出てきた二人を急いで確保する。
「やぁクラフト部のみんな。どうしたのかな? いや……わかっているよ。ワタシの、ワタシたちの、お祝いに来てくれたんだね?」
「えっ!? あの、その……」
「研究室を持つことはワタシの夢でもあったからね。でもさすがに、こんなに早く願いが叶うとは思わなかったよ。ありがとう、みんな」
「うっ……あっ……おめでとうございます。って、それはそうなんですけど!」
うぅ、この人と話してるとなんか調子狂う……。
「あはは……いやいや、ごめんねクランリーテちゃん」
私が戸惑っていると、フリル先輩が前に出てきてくれる。
「フリル先輩……」
「とりあえず、場所変えない?」
フリル先輩の提案に頷いて、私たちは風の塔の中庭へ移動することにした。
「例の、四つの箱なんだけどね。改めてヒミナと話をして、それをわたしが詳しくまとめて、試験が終わった後に発表したんだ。そしたら、あれよあれよと話が進んじゃってさ。いやいや驚いたね。まさか一週間もしないで研究室もらえるって話になるなんて」
「は、はぁ……」
四つの箱。
私たちは四属性魔法を使い分けるために、知らず知らずのうちに四つの枠に切り分けていた。その枠組みのことを、四つの箱と表現している。
魔法はイメージ。
私たちは、四つの箱のうち一つだけを使って魔法を発動している。
それは、取り込めるマナの四分の一しか使えていないということだった。
だけど、イメージの壁を取り払うことができれば。
四つの箱を一つに。マナを全て使い、大きな魔法を使うことができる。
この理論を研究内容として発表したのなら……。
研究室をもらえたっておかしくない。
……ちょっと考えればわかることだったのに。私はそこまで思い至らなかった。
黙って聞いていたサキたちも、ぽつぽつと感想を漏らしていく。
「話はわかったけど、さすがに早すぎよね。決定まで一週間かからないなんて」
「はぅ。私たちの、猫アレルギーの薬とは大違いです」
「まー、先輩たちのは属性魔法に関わることだからねー」
「うんうん、さすがチルトちゃん。その通りなんだよ。それでもこんなに早かったのは、あの先生が動いてくれたからかな」
「あの先生……って?」
「クランリーテちゃんたち知ってるかな?」
「どうだろうね。一年生はあまり受け持っていないんじゃなかったかな、ベイク先生」
「え……えぇ!? ベイク先生が!?」
「おや、知っているんだね。ベイク先生はワタシたちの話を熱心に聞いてくれてね。その後、大喜びで校長に研究室の話を持っていってくれたんだ。ありがたい話さ」
「いやいや正直ベイク先生、制御しきれないヒミナを疎んでいたと思うんだけど……。あんなベイク先生初めて見たよ。なにかあったのかね?」
「あー……、あったのかもしれませんね」
試験後といえば、アイリンが平均点以上を取って、ベイク先生の企てを阻止した直後。
そこに、属性魔法の発展に繋がる研究となれば……先生が飛びつくのも当然だった。
「というわけでね、研究室はわたしとヒミナの共同研究ってことになってるんだ。……クランリーテちゃん、ごめんね」
「あっ……いえ……もともとは、ヒミナ先輩の言葉ですから」
フリル先輩に謝られて。
あぁそっか。と、気付くことが出来た。
研究室の話を聞いて衝撃を受けたのも。昼休みになると同時に急いで駆けつけたのも。
(四つの箱、ヒミナ先輩の言葉を解き明かしたのは、私なのに――)
そんな想いがどこかにあったからだ。
でも、そう。私は先輩の言葉を理解できただけ。
発見したのはヒミナ先輩なんだ。
先輩が研究室を持つのは、当たり前のことだった。
「その……私の方こそ、いきなり押しかけてすみませんでした。ヒミナ先輩、フリル先輩。改めて、研究室おめでとうございます」
頭を下げながら、思う。
先輩たちは研究室を持った。でも、私たちだって――。
「気にしないでってば、クランリーテちゃん。本当に、ありがとね」
「ありがとう、クランリーテ。だが、問題は山積みなんだ。ここからが研究の本番だからね」
「ふお? なにかあるんですか?」
「あるある。考えることいっぱいあるんだよアイリンちゃん。例えば……あ、クランリーテちゃんは気付いてるんじゃない? 四つの箱の問題点」
「問題点……。そうですね、なんとなく、ですけど。サキはどう?」
「そうね、あたしも心当たりがあるわ」
四つの箱の問題点。それは――。
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