第四部・二学期編・2

クラフト24 世界が変わる研究

161「ただいま?」クランリーテ


 ナハマ空洞大調査。


 私たち未分類魔法クラフト部は、一週間学校を休んで調査に参加して来た。


 色んな発見があった。衝撃的なことがあった。


 あの空の研究室で見付けた文章――私だけが読めた壁の手記は。

 しばらくは秘密にしないといけないけれど。


 世界の秘密の、最先端に立つことができて。

 これから世界が変わっていくんだって、感じることができた。


 だけど。


 ターヤ中央区高等魔法学校。


 まさか、私たちのいない一週間の間に。

 それこそ、世界が変わるほどのことが起きているだなんて、思いもしなかった。



                  *



「クラリーちゃぁぁん! おはよう!」

「おはよう、アイリン。……昨日ナハマから帰ってきたばっかりなのに、元気だね」


 朝、教室に向かう途中。後ろから聞こえてきた元気な声に振り返る。

 結構ギリギリまでナハマに滞在していた私たち。本当は一日くらい休みたかったけど、そうもいかなくて。こうして普通に登校している。

 私はちょっと疲れが残ってるんだけど……アイリンは元気いっぱいだ。


「えへへ~。久々の学校ってなんかドキドキするよね? それでテンション上がっちゃって」

「それはアイリンだけだと思うよ……。でも、そうだ。教室入る前にアイリンに会えてよかった」

「え? なんで? なにか用事あった?」

「そうじゃないけど。ナハマに行ってたこと、クラスのみんなも知ってるでしょ?」

「うん、そうだね。出発前にみんなに話したから」

「だからその、どんなことがあったのか質問攻めにあいそうだなって」

「あ~! たしかにそうかも! ……あれ? でもなんでわたしが一緒の方がいいの?」

「……私一人に集中されても困るからだよ」


 あんまり大勢に囲まれるのは得意じゃない。逆にアイリンはそういうの気にしないだろうし、むしろ喜びそう。


「ふーん? あ、でもそうだね。わたしもクラリーちゃんと一緒でよかったかも」

「あれ、アイリンも?」

「クラリーちゃん。もしわたしが言っちゃいけないことまで言いそうになったら止めてね!」

「……そうだった。うん、気を付ける。いや、気を付けてよアイリン……」


 そんな話をしていると、教室に到着。さて、いよいよ――


「あ、クラリーさん、アイリンちゃんも。おはよー」

「おはよー!」

「――お、おはよう」


 不意打ちだった。

 後ろからやってきたクラスメイトが、私たちに挨拶をして……そのまま中に入っていってしまう。

 ……あれ?


 私とアイリンは首を傾げて、後を追う。


「みんな、おはよー!」

「おはようアイリンちゃん」

「クランリーテさん、おはよう」

「おはよう……」


 アイリンが元気な声と共に教室に入ると、みんな挨拶を返してくれる。


 けど、それだけ。一週間前の、いつもと変わらない。

 てっきりあれこれ聞かれると思っていたから、拍子抜けだった。


「まさかなにも聞かれないとは……ちょっと想定外」


 変に気を使わなくて済んでホッとした反面、これはこれでなんか寂しい。


「クラリーちゃん。教室の真ん中、集まってなにか話してるよ」

「……だね。なにかあったのかな」


 私たちは集まっている輪にそっと近付いて、耳をそばだてる。

 もしかして、ナハマ空洞大調査のことなんて吹っ飛んでしまうような、流行りの話題があるのかな……。


「すごいよなー。学校史上初なんだろ」

「らしいよ。どれだけ天才なの?」


 ……? もしかして……。


「最近、一年生の間でも話題になってたよな、あの先輩」

「うん、夏休みの自由課題の発表会で知ったよ。


 やっぱりヒミナ先輩のことだ。

 あの人、今度はいったいなにを。



「二年生で研究室持つとかヤバすぎ」



「……え?」

「研究室!? ヒミナ先輩が?」


 私とアイリンが驚いた声をあげると、話をしていたクラスメイトたちが振り返った。


「ん? あーそっか。二人はいなかったからな。知らないんだ」

「発表あったの、先週末だもんねー」


「本当にヒミナ先輩が研究室を持ったの? なんの研究で? マナ計測器?」

「ク、クランリーテさん落ち着いて。……実は私たちも、研究内容はまだよくわからないの」

「なんだっけ? 確か、使とかなんとか」

「え、それって……」


 まさか、その研究は、


「四つの箱がどうとか、言ってたかな」


「――――!!」

「クラリーちゃん!?」


 予想通りの言葉だったけど。

 ナハマで色んな発見をした時と同じくらいの衝撃が走った。

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