158「遺された文字」クランリーテ


 右側の黒い壁に、ビッシリと文字が書かれている。

 ミルレーンさんの後ろから見てもそれがわかった。


 最近まで、古代遺跡から文字が見付かったことはなかった。

 未開の大陸で僅かな文字が発見されただけで、少なくとも私たちの大陸では発見されていない。

 

(それが……いま、目の前に。こんなにいっぱい……!)


 気が付けば、私はミルレーンさんを追い越して部屋の中に入っていた。

 読みたい、早く、書いてある文字を読みたい――。


 私は黒い壁の前に立った。

 そこに書かれている文字は……私たちが使っている文字と本当によく似ていた。

 前に聞いた通りだ。私たちは、古代文明の文字を読むことができるんだ。

 もちろん違うところもあるから、つっかえながらになるけど。私はゆっくりと読み進める。



『人類が滅亡したあの日、私だけがこの研究室に逃げることができた。

 愛する人と、自分の子のように育てた彼を置いて、私だけが』



 これって……。

 古代文明が滅びた時、ここに逃げた人がいた? その人の手記?

 わたしはさらに読み進めていく。



『一刻を争う状況だったのだ。どの部屋にいるかもわからないアステルとイルテを探していては、他の者と同じように死んでいただろう。やむを得ずマナテクニックを使い、密かに造っていた天空の研究室に逃げ込んだのだ』



 アステル、イルテで少し止まってしまったけど、どうやらこれは名前みたいだ。

 マナテクニックって……?



『当時、私の研究は順調に進んでいた。

 アイオウーエ大陸に大きな研究所を構え、資金も潤沢だった。研究員や技術者も多く抱えていた』



 よくわからない言葉が続いている。

 アイオウーエ大陸は、私たちの住んでいる大陸の名前だ。古代文明の頃から名前が変わってない……。これは貴重な情報かも。


 とにかく、これを書き残した人がなにかの研究をしていたのはわかった。

 内容についても書いてあるかな?



『すべてが上手く行っていると、そう思い込んでいた』



 ……あれ? さっきよりも文字が薄くなってきた? 気のせいかな……。



『いよいよ――試験を行うことに――あの日、問題―起きた――……』



「……え? うそ、待って!」


 気のせいじゃない! 文字が消えかかってる。

 まだ半分も読めてないのに!



『―――だけでなく、その場にいた研究員まで苦しみだした。

 失敗だ。

 私は急いで――止め、――を―――――――だが、そこにヤツらが――――……

 強力な遺産を使い、――――――――私たちを拘束した。

 ヤツらの目的は――』



 ダメだ、もうまったく読めない! 完全に消えてしまう!

 私は慌てて目を走らせた。


 飛び込んできた文字は、



『簡易的な遺産』


『マナの研究』


『鍵はアステルの』


『地上へ降りるための準備』



「あ……あぁ!」


 そして、一番最後の行を読んだところで……文字はすべて、消えてしまった。



「クランリーテ!!」

「――え?」


 ガシッと、強く肩を掴まれた。

 振り返ると、苦しそうな表情のミルレーンさん。


「どうし――って、えぇ? み、みんな? どうしたの?」


 ミルレーンさんだけじゃない。少し後ろには床に手を付いたアイリン。入口の辺りで倒れたナナシュを抱えるチルトとサキ。みんな、苦しそうな顔をしていた。


「いったい、なにが……」

「なにが、じゃない……。何故、なんともないんだ。クランリーテ」

「…………え?」


 もう、私の頭はパンク寸前だった。

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