156「起動」クランリーテ


 扉が閉まり、円柱の天辺に窪みができていた。

 そして、円柱の中に感じる四つのマナの塊。

 私たちのよく知る、属性魔法と同じ形をしているように見えた。


「バカな、古代文明に属性魔法は無いはずだ。なぜ……」

「うわー! クラちゃんヤバイよそれ! ヤバイ発見だー!!」


 今まで見付かった古代遺跡から、属性魔法の痕跡は見付かっていない。

 属性魔法は古代文明が滅んだ後に生まれたものだと思われていた。

 それなのに……。


「お、落ち着きなさいよ。そ、それで? この中に属性魔法のマナがあるんだとして、なんなのよ、この台は!」

「待って。……マナの塊から細い線が伸びてて、上の窪みに繋がってる」


 四つのマナの塊と、四つの線。これって……?


「ね、クラリーちゃん。もしかしてこの窪みに、属性魔法を使えってことじゃないかな?」

「……!? い、いや、アイリン……でも」

「あ、あり得るわね」

「やってみる価値はありそうです。けど……」

「やろうやろう! ここまできたらやるしかないよー」


 チルトの言葉に、私たちは頷き合った。そして揃ってミルレーンさんを見る。


「……なにが起こるかわからないぞ? いいのか?」


『はい!』


 五人の声が綺麗に重なった。


「ふぅ……。責任者として、君たちを危険な目に合わせるべきではないのだが」

「止めても無駄ですよー。ボクたち、やっちゃいますからねー」

「……わかった。そうだな、そのために私がいるのだ。よし、それぞれ属性魔法を使ってくれ」


 私が風属性魔法を。サキが火属性魔法。

 ナナシュが水属性魔法、チルトが土属性魔法を使う。


 台の上に小さな魔法を発動させると――シュッと、吸い込まれるようにして消えてしまった。


「あ……マナが、下に落ちた」


 円柱の中にあったマナの塊が、魔法に押されるようにして床下まで落ちた。すると、



 ブゥオオオオ――!


 部屋全体から低い音が鳴り始める。これ、部屋が揺れてる?


「う、うわあぁ? なにこれ、なにが起きてるのー?」

「皆、私の身体に掴まれ! 絶対に離すな!」


 みんな抱き合うようにミルレーンさんにしがみつく。

 ミルレーンさんは風魔法で障壁を作り出し、みんなを守ろうとしてくれている。


 これって、まさか部屋が……?

 もしかして私たち、とんでもないことをしてしまった?


 ゴオオオオオオオオ!!!


 ああ、マナがものすごい勢いで、部屋全体を駆け巡り――。



 ブンッ!


 一瞬だけ真っ暗になり。


 すぐに、天井の光が灯った。



「……皆、無事か? 身体に異常はないか?」

「は、はい。大丈夫、です」

「なんだったのよ……今の」

「うーん、なにも起きてないっぽい? なにか起きると思ったのになー」

「はぁ~、びっくりしたー。部屋が崩れるんじゃないかって怖かったよ~」

「あはは……実は私も、アイリンと同じこと思ってた」


 無事を確認し合って、私たちは揃って大きなため息をついた。

 いったいなんだったのか……。


「あ……あれ? リジェが、無い……です」

「え?」


 ナナシュに言われて部屋の隅を見ると、確かに生えていたはずのリジェが一本も無かった。


「さっきまで生えてたわよね?」

「はい。はっきりこの目で見ました。間違いないよ」

「むっ。これは、隙間自体が無くなっているぞ」

「えぇ? それって……どういうこと、ですか?」

「わからない。他に変わったところはなさそうだが」

「ミルレーンさーん、出てみましょうよー」

「あぁ……そうだな。開けてくれ、チルト」

「了解ー! って、あれ? ……把手がある。こんなの無かったよ?」


 チルトが壁に手を当てると、それだけでスーッと壁が横に動き、扉が開いた。


「んー、見落としてた? ま、開いたからいっか。外に――――――え?」

「どうしたのチルト――――――は!?」


 チルトに続いて私も外に出ようとして、固まってしまった。だって、そこは……。

 私の肩越しにアイリンも外を覗く。


「え、えぇ? わたしたち、ナハマ空洞にいたよね? ……?」


 部屋を出てみると、そこは狭い廊下だった。

 ……ゴツゴツした岩ばかりの大空洞が広がっていたはずなのに。

 壁や床はたぶん木造。いくつか嵌め殺しの窓が並んでいるだけで、装飾の類はなにもない。殺風景な廊下で、この部屋を囲むようにぐるっと弧を描いている。


 ここは、いったい……?


「うわ……うわぁぁぁ……み、みんな、大変だよ……見て、窓の外」


 チルトが窓のところで、大きな口を開けて固まっていた。

 私も近くの窓に顔を近付けると、


「え…………?」


 その光景に、理解が追いつかなかった。

 さっきの、この廊下を見た時以上の衝撃に言葉を失う。


 何度も言うけど、私たちは大空洞にいた。

 ゴツゴツした岩ばかりの、薄暗い空洞にいたはずなんだ。


 だけど、窓の外にはなにも無い。


 いいや、青い空がある。見渡す限りの白い雲も。

 ただ……雲があるのは、上ではなくて……


 私たちの眼下に、雲の海が広がっていた。

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