155「扉と魔剣」クランリーテ


「あ、例の部屋、もう開いてるんですね」


 ナハマ空洞に辿り着いた私たちは、まず前回発見した部屋をもう一度調べることになった。

 あの時はチルトが壁に魔剣を当てたら開いた。今回も開けるところからだと思い込んでいたけど……よく考えたら先乗りした探検家がいるんだから、開けてあるに決まってる。

 と、思ったんだけど。


「実はな……。扉が閉められないのだ」

「え、そうなんですか?」

「ああ。同じように魔剣で触れたりしたのだが、扉は閉まらなかった」

「へー。じゃあ開きっぱなしなんだー」


 チルトはそう言って、入口付近の壁に近付いてぺたぺたと触り始めた。


「扉のことは一先ず置いておこう。中に入るぞ」


 入口を調べているチルトを置いて、私たちは中に入る。


「相変わらず黒いわね」


 縦長の四角い部屋。サキの言った通り、壁と床が真っ黒。

 古代遺跡でよく見付かるもので、『黒い壁』と呼ばれているらしい。

 天井だけは淡く白い光が灯っている。そういえば、この天井の仕組みもわからないままだ。

 そして中央に、謎の円柱の台。

 床と一体になっていて、これも真っ黒。模様も無い。

 前に来た時も、これがなんなのかわからなかった。


「あ、薬草リジェもまだ生えてますね」

「数本採取したが、残してある。……結局このリジェについても、研究が進んでいないのだがな」


 茎から変わったマナを吐き出して、外のマナを包んでから取り込む。

 その性質のおかげで、猫アレルギーの薬を思い付くことができたわけだけど……。

 結局その不思議な生態の理由はわからず仕舞い。


「さて、やはり問題はこの円柱の台だ」


 ミルレーンさんはそう言って、腰に携えた魔剣を抜く。


「すでに試したのだが……」


 ブンッ……。


 マナのゆらぎを感じ、私はビクッとする。

 感覚を開かなくても感じる。なにか、異質なマナの動きだ。


「あ、あの、ミルレーンさん。もしかしてあの台を掴んでるんですか?」

「そうだ。クランリーテ、なにか異常はないか?」

「異常というか……」


 その魔剣が、少し怖いです。


 ……と、そういうことを聞きたいんじゃないはず。

 私は感覚の窓を開き――円柱を見る。


「……特に、なにも。マナは感じません」

「やはり、そうか」


 魔剣から伸びる、無数の腕以外は。

 見ていると気持ち悪くなりそうだったから、すぐに発動を止めてくれたのはありがたかった。


「台を掴んでもなにも起きないのはわかっていた。だが、内部で動きがあるかもしれないと思ったのだ。……クランリーテ、顔色が悪いが大丈夫か?」

「は、はい。大丈夫です」


 深呼吸して、気持ちを切り替える。あの腕のことは忘れよう。



「うーん、やっぱり気になるなー」

「チル? いつまで入口を調べてるのよ」


 振り返ると、チルトはまだ入口のところにいて、腕を組んで首を傾げていた。


「だいたいさー、部屋としておかしいよ。閉じられないなんて」

「それはそうでしょうけど、古代遺跡よ?」

「サキー。それで片付けちゃだめだよー。ここは間違いなく、人間が作ったんだよ。なにかのためにね。だったら扉は閉められるようにできてるはず。そもそも最初は閉まってたんだからさ」

「それは……。そう言われると説得力あるわね」


 閉まっていたんだから閉められるはず。それはそうだけど……。


「んー、ボクも試してみようかな」


 チルトはそう呟いて、腰から魔剣を引き抜く。

 そして入口脇の壁に当てると――。



 ブゥオン――



 この感じ、まるで魔剣を発動した時のような……。

 いや、前にもまったく同じものを感じたことがあった。


 チルトの魔剣を中心にマナが広がる。壁の中を走って行く。


 ガシャン。


 どこからともなく金属音。そして、


「あっ、やった、閉まった!」


 入口左右の壁が動き、扉が閉まった……。



「なっ、なにをしたのだ、チルト!」

「え、いやー。自分の魔剣を当てただけですよー」

「なんだと? ここに呼んだ探検家が所持する、すべての魔剣を試しても反応しなかったんだが……」

「ミルレーンさん、それってもしかして……チルトの浮遊導剣フローティング・ナイフでしか……?」

「専用の鍵ということか? しかし、何故」

「うーん、謎ですねー。この魔剣、ナハマ空洞で見付かったものじゃないんだけどなー」


 入口は、ただ魔剣なら開くというものではなかった。

 チルトの魔剣じゃないと開閉できない扉……。


「み、みんな、見てください! 中央の台が!」

「え……?」


 ナナシュの声に、全員台のところに集まる。

 見ると、円柱の天辺が……丸くへこんでいる?


「ここ、へこんでなかったよね?」

「うん! 真っ平らだったはずっ!」

「扉が閉まった時に窪みができたのか? だとすると……この円柱は、扉が閉まった状態でないと意味がないのかもしれない」

「あ……ミルレーンさん、見てみます!」


 私はもう一度感覚の窓を開ける。すると……。


「え? これ……なんだろう?」

「なにかあるのか、クランリーテ」

「はい。円柱の真ん中辺りに、四つのマナの塊が……。これ、どこかで……?」


 それぞれ違う感じのするマナ。

 見覚えがある。いや、これってまさか、


「……?」

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