クラフト23 過去と私たちを繋ぐ場所

154「ナハマ空洞、再び」アイリン


「戻ってきたね!」

「うん。二ヶ月ぶり?」

「なかなか濃い二ヶ月だったわね」

「確かにねー。面白かったけど!」

「大変だったけど、いいこともありました」


 未分類魔法クラフト部。

 わたしたちは揃って、ナハマ空洞の入口に立っていた。


 夏休みにこの大空洞で、隠された部屋を発見して。

 それから色んなことがあって……。

 もう二ヶ月? まだ二ヶ月?

 早いなって思うこともあれば、まだそれだけしか経ってないんだって思うこともある。

 不思議な感じだけど、あれだけ大変なことが立て続けに起きればそうなるのかもしれない。


 たぶん、わたしたち五人が一緒にいる限り。

 そういうことが続くんじゃないかな。そんな予感がする。


 たぶん、この今回の調査でも。わたしたちなら、きっと新しい発見をしちゃうはず!



「待たせたな。未分類魔法クラフト部」

「あっ、ミルレーンさん!」


 空洞の中から、魔法騎士のミルレーンさんが姿を現す。中で調査をしていたのかな。


「迎えに行けず、すまない。現場の指揮もあってな」

「調査の指揮、やっぱりミルレーンさんがするんですね」

「あぁ。騎士長のワドルクさんがいないからな」


 魔法騎士団、騎士長のワドルクさん。

 あの人はこの調査には参加せず城の方に残っていて、わたしたちを見送ってくれた。


「他の隊の人間も調査を手伝っていてな。こちらにかなりの人数を割いている。いざという時のために、ワドルクさんは城に残ることになったわけだ」

「なるほどー。第三隊の隊長さんも来てるんですよねー。第一隊のすごい人も。ビクトルさんでしたっけ」

「……随分詳しいな、チルト。どこから得た情報か聞かせてもらおう」

「あっ、余計なこと言っちゃったかなー?」


 チルちゃんは笑って、少し離れたところでミルレーンさんと話し始める。

 その隙に、わたしはこっそりクラリーちゃんに耳打ちした。


「ね、魔法騎士の第一隊って、城の警備だっけ?」

「……違うよ。第一隊は城下町の警備。第二隊が城の警備だよ」

「そうなんだっけ? 逆だと思ってたよ」

「一番は街の人。という考えだって聞いたかな。で、第三隊は城下町以外の地方警備」

「なるほど~。第四隊は調査が専門なんだよね?」

「うん。今は未分類魔法と魔剣が調査対象らしい」


 そんな話をしていると、ちょうどミルレーンさんとチルちゃんの会話が終わったみたいだ。


「では早速、中に入ろう」

「はいっ! ……あれ? ミルレーンさん、今日は剣を持ってるんですね」


 魔法騎士の人って、あんな大きな剣を腰に下げたりしないのに。珍しい。


「アイちゃん、あれはただの剣じゃないよー」

「え、そうなの?」

「ただの剣じゃないって……。え、まさかっ」

「ああ、魔剣だ。調査の役に立つかもしれないと持たされた。魔剣については、移動しながら話そう」


 そう言ってミルレーンさんが歩きだして、わたしたちも空洞内部へ。

 ゴツゴツした岩の坂を慎重に下りていく。


「チルトはもうわかっているようだが、この魔剣の名は魔手封剣サイドアーム・ソードという」

「さいどあーむ……ソード?」

「えっ、嘘でしょ?」

「ほ、本当にそうなんだ。すごい、初めて見た」

「私もです。こんな間近で見られるなんて……」

「あ、あれ?」


 わたしだけわからない……?

 もしかしてすっごく有名な魔剣だったりするのかな。


「まさかとは思うけど、アイリン……?」

「あ、あははは……。クラリーちゃぁぁん、教えて!」

「はぁ……。魔手封剣サイドアーム・ソードは、世界で最初に見付かった魔剣。ターヤ王国の国宝だよ」

「へぇ~、最初に……え、国宝!? あっ!!」


 そういえば国宝になってる魔剣があるって聞いたことがある。これがそうなんだ……。


「国宝を持ち出すってことで、第一隊の人とか第三隊の隊長さんが駆り出されてるんだってー」

「……第三隊の隊長は、私の指揮のサポートがメインだがな」


 はー……。なんせ国宝だもんね、扱いも慎重になってるんだ。

 ナナシュちゃんも言ってたけど、こんな間近で見られる機会はそうそう無いかも。


「この魔剣は、ここ、ナハマ空洞で発見されたのだ」

「ふおお! そうなんだ! あ、だから持ってきたんですか?」

「ああ。例の隠し部屋を見付けた時の様に、この魔剣が反応する場所があると思ってな。……今のところ成果はないが」

「そっか~……。あの、その魔剣はどういう魔法が使えるんですか?」

「アイリン、本当に知らないんだね……」

「うっ、あはははは~……」


 そっか、最初に見付かった魔剣で国宝なんだもんね。魔法の効果も知れ渡ってる。

 わたしすっごく常識的なことを聞いちゃってるんだ……。


魔手封剣サイドアーム・ソードの魔法は、見えない腕を伸ばす、というものだ」

「見えない腕……? 伸ばす?」

「正確には、見えない無数の腕だ。腕を伸ばすことで、遠くの物を掴むことができる」

「ふおおお! すごい!」

「操れる腕の数は使用者次第。そしてなにより強力なのは、人間を掴んだ場合だ」

「人を掴むとどうなるんですか? ま、まさか、そのまま……」


 わたしは思わず、恐ろしい想像をしてしまう。


「……握り潰したりはできないぞ。だが、相手の魔法を封じることができる」

「え、えぇ!? 魔法が使えなくなっちゃうんですか?」

「そうだ。もちろん身動きも取れなくなる。完全に相手を拘束することができるのだ」

「うわぁ……すごい、魔剣だ……」

「アイちゃん、だから国宝になってるんだよー」

「そっか、すっごく納得したよ」


 世の中にはものすごい魔剣があるんだなぁ。

 ……今度、他の有名な魔剣のこと、チルちゃんに聞いてみよう。


「ミルレーンさん。私たちが来るよりも前から、調査は始まっていたんですよね?」

「私を含めた魔法騎士数名と、探検家が先乗りをしている」

「なにか発見はありましたか?」

「……残念ながらだ、クランリーテ。魔剣を所持している探検家を中心に参加してもらっているのだが、例の部屋のような大発見はまだ無い」

「そうですか……」


 ナハマ空洞は、過去にこれでもかってくらい探索したって聞いたことがある。

 わたしたちがあの隠された部屋を見付けられたのは、やっぱりすごいことだったんだ。


「ただ……そうだな。これはまだ推測なのだが」


 ミルレーンさんがそう前置きをして、壁に手を触れて話し始める。


「この大空洞には、なにか大きな建物があったのかもしれない」

「建物……ですか?」

「君たちが隠し部屋を発見したのもあり、徹底的に空洞の壁面を調べたのだ。すると、長い年月が経ち分かり難くなってはいるが、壁や地面を平らに削った痕跡が見付かった」

「ふおおお!」

「それってすっごい発見じゃないですかー!」

「ここに、建物が……。ナハマ空洞は、自然にできた空洞ではないのですか?」

「いいや、空洞自体は自然にできたものだろう。その中になにかを造ったのではないか、という……推測だ。古代文明の建築方法は、未だに明らかになっていないからな」

「はぅ、そうなんですか?」

「ナナちゃん。見付かってる古代遺跡って、建物としては不完全なものが多いんだよー。部屋の一部分だけが埋まってたり、内装の無い地下室とかね。たぶん住居ではないんだろうって言われてるよ」

「そうなんですね。さすがチルトちゃん、詳しい」

「へぇ……私も初めて聞いたよ」

「なんかわたし、ちょっと古代文明に興味わいてきたかもっ」

「お、アイちゃんいいねー。みんなで遺跡探索行けるといいなー」


 話を聞いていたら、すっごくワクワクしてきた。

 よーっし、今回もなにか見付けるぞっ。


「古代文明の手がかりは、皆が思っている以上に少ない。クランリーテには色々な場所のマナを見てもらいたいが、まずは」


 歩いていた坂が、だんだん広くなっていく。

 そして一気に視界が開き――目の前に、巨大な空洞が広がった。


「前回発見した、隠された部屋をもう一度調査しよう」

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