153「みんな一緒だよ」アイリン


 二学期中間試験、終了。


 試験の前日は、夜中までクラリーちゃんの家で特訓をして……なんとか夜明け前に終わって、少しだけ寝ることもできた。

 寝不足には変わりなかったけど、おかげで試験の間は集中力が保ってくれた。終わったあとわたしとクラリーちゃんはもう起きてられなくて、部室でちょっと寝てから帰ったっけ。


 そして今日は、いよいよ試験の結果発表――。



「ふおおお、相変わらずクラリーちゃんすごいね! ぜんぶ一位だよー」


 この学校の試験結果は、職員室前に一位の人の名前だけ張り出される。

 クラリーちゃんの名前がズラリと――。


「あー……アイリン、よく見て。火属性」

「え? あぁ! 火属性魔法だけ違う! ――サキちゃんが一位だ!!」


「ふっ……ふふ! そうよ、今回はあたしが一位よ!!」


 後ろからそんな声が聞こえて振り返ると、サキちゃんが腕を組んでふんぞり返っていた。

 わたしは素直に、


「サキちゃんすごいよ! おめでとう!」

「あーあ、ついに抜かれちゃったか」


 サキちゃんは賛辞を贈る。あ、クラリーちゃんはちょっと悔しそうだ。


 そんなわたしたちを見て、サキちゃんはすぐにふんぞり返るのをやめて真面目な顔になった。


「……ふん。そうは言っても、クラリーは徹夜明けだったのよね。これじゃ勝ったとは言えないわ」

「あっ……ご、ごめんねクラリーちゃん。わたしのせいで」

「いや。火属性魔法の試験は一番最初だったし、いつも通りの魔法が使えてた。……サキ、例のアレ。できたんでしょ?」


 例のアレって、四つの箱のイメージのことだよね。四属性の枠組みを一つにするって。


「……火属性だけね」

「やっぱり。だったらサキが頑張ったんだよ。おめでと、サキ」

「なっ……それ、いまっ……。で、でもまだ火属性だけなんだから! いつか全部の属性であなたを抜くから、覚悟しなさいよね!」

「うん。私も次は負けない」

「~~~~っ!! そ、そういえばあたしはチルに用事があったんだったわ。ちょっと失礼するわね!」


 サキちゃんはそう言って勢いよく後ろを向いてしまう。

 どうしたんだろう?


「ボクがどうかしたのー? サキ~?」


 その横から、チルちゃんが手を振りながらやって来た。


「えぇっ! な、なんで、チルがここにいるのよ!」

「なんでって試験結果見に来たんだよ。……なんでそっぽ向いたまま話すのかなーサキ?」

「うるさいわね! ちょっと放っておきなさいよ」

「あはは……。あ、すごいですねクラリー。サキちゃんも、火属性一位おめでとう」


 チルちゃんの後ろから、ナナシュちゃんも姿を見せる。二人一緒に来たみたいだ。


「私たちのことはともかく……問題は、アイリンなんだよね。一位しか出ないから、どうだったのかわからない」

「う、うん。そうなんだよね……」


 たぶん、試験は上手くいったと思う。でも結果を聞くまで安心できなかった。



「揃っていますね、未分類魔法クラフト部。アイリン」



 名前を呼ばれて振り返る。そこには、


「あ、ヘステル先生! ……と、ベイク先生」

「…………」


 ヘステル先生と、黙って隣りに立つ――明らかに不機嫌そうなベイク先生。


「結果は、見ての通りです」

「……どういう意味だ、ヘステル先生」

「失礼。アイリン・アスフィール。あなたは中間試験で、見事平均点以上を取りました。退学の話は白紙です」

「あっ……」


 平均点以上、取れてた……! 退学は無し!


「やったぁ! やったよみんな!!」

「アイリン……よかったね」

「当然よ。あんなに頑張ったんだから」

「アイちゃんならやってくれると思ったよー」

「はぅ。おめでとう、アイリンちゃん」


 結果を聞いて喜び合っていると、


「……これくらいで満足されては困るな。アイリン、君はまだ」

「ベイク先生」

「っ……ふん。赤点ラインだった君にしては、頑張った方だろう。これからも精進することだ。しっかり学ぶように」

「はい! ベイク先生!!」


 わたしが元気よく返事をすると、ベイク先生は一瞬だけ驚いた顔をする。そしてすぐに背を向けて、早足で歩き去って行った。


「珍しいものを見ましたね。ベイク先生のあんな顔は珍しい。……アイリン」


 ヘステル先生はわたしたちに近付いて、声を潜める。


「みんな、本当によく頑張ったわ。アイリンが退学を回避できたこと、私も嬉しい」

「せ、先生……!」

「……では。私もこれで失礼します」


 離れていくヘステル先生に、わたしたちは揃って頭を下げた。


 ――ありがとうございます、先生。


 あとで、ちゃんとお礼を言いに行きますね!



「ふぅ。これでやっと安心できるよ。ね、アイリン――」

「うっ……」

「――アイリン?」


 みんなもう顔を上げていたけど、わたしだけ下げたまま。

 もう、我慢できない――。



「うわぁぁぁぁぁぁん!! よかったよぉぉ!」


「うわっ!?」


 わたしは隣りにいたクラリーちゃんに抱きついた。


「――怖かった! すっごく怖かったの!」


「アイリン……」

「退学なんて……考えただけで夜も眠れなかった! みんなと離れちゃうのを想像しただけで、うぅ……。でも属性魔法がギリギリまでぜんぜんダメで、もう、本当に怖くて怖くてしょうがなかったんだよぉ!!」


 我慢していた、怖かった気持ちが。涙になって溢れ出す。止まらないよぉ……。



 ぎゅっと、クラリーちゃんが抱きしめくれる。


「……みんな一緒だよ。だから、最後まで協力したんだよ」


 サキちゃんと、チルトちゃんと、ナナシュちゃんも。わたしを抱きしめてくれる。


「みんな、アイリンと離れたくなかった」

「うぅ、でもわたし、みんなの力になれなかったのに……」

「……そんなこと気にしてたの?」

「ふふっ。アイリンちゃんのおかげで、猫アレルギーの薬が作れました。おかげで……私は、自分に自信を持っていいんだって思えたよ」

「ナナシュちゃん……」

「ボクもさ、留学に行くって言った時、泣いてくれたアイちゃんがすごく嬉しかった。寂しいって思ってくれるんだって。ボクと同じ気持ちで、よかったなって」

「うぅ、チルちゃん……」

「アイリンは、いつも真っ直ぐぶつかっていくわよね。……そんなあなたを見てきたから、あたしも……。こうして一位を取れたのは、あなたの影響も大きいのよ」

「サキちゃん……!」

「私一人じゃダメでも、みんなに相談すれば乗り越えられる。そう気付かせてくれたのはアイリンなんだよ」

「うぅ……う……クラリーちゃぁぁん!」


 ますます涙が溢れ出す。

 もう、怖かった気持ちはなくなってるのに。


「わ、わたし、みんなの力に、なれてたの?」

「そうだよ」

「決まってるじゃない」

「もちろんっ」

「当然です」


「――ありがとう! わたしも……みんなのおかげで、一緒にいられるよ!」


 今はただ、嬉しくて。涙が止まらない。

 泣いているのに笑顔になる。

 気持ちが明るくなっていく。


 みんなと一緒にいるだけで、こんなにも――。



「うぅ……もうずっとこうしていたい……」

「な、なに言ってるのよ」

「と言いつつ、サキも同じことを考えていたのでしたー」

「考えてないわよ!」

「え、サキちゃんは考えてないんですか?」

「ナナシュまで! ちょっと、最近チルの影響受けてない? ダメよ?」

「ぷっ、あはははは! やっぱりみんなといると楽しいよ~」

「……だね。でもアイリン、そろそろ。試験が終わったから、次は――」

「――そうだ! ナハマ空洞に行くんだよ! 急いで準備しなきゃ!

 よーっし、みんな、がんばろうね!」




未分類魔法クラフト部

クラフト22「アイリンの試練」

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