152「魔法の回路」アイリン


「わたし、わかったよ! 属性魔法をイメージする方法!」

「そ、そうなの? 今の話で……?」

「うん! あと、こないだクラリーちゃんから聞いた箱の話のおかげかな?」


 わたしの中には、未分類魔法の大きな家がある。

 属性魔法は、その横にちょこんと小さな箱が置いてあるだけ。


「結局わたしにはね、未分類魔法しかないんだって、わかったんだ」

「アイリン……?」


 心配そうな顔のクラリーちゃんに笑顔を向けて、説明を始める。


「みんな聞いて。あのね、テレフォリングを作る時って、鉱石の中に枠を作ってるんだよ。わたしは、回路って呼んでるんだけどね」

「回路……」

「回路にマナを通すと、決まった魔法が発動する。通話魔法はそういう未分類魔法なんだ」

「……それ前にも聞いたけど、やっぱり魔剣やマナ吸収器官の再現なんだよね……。あ、いやなんでもない。続けて、アイリン」

「うんっ。だからね、属性魔法をイメージするときにも回路を使えばいいんだよ! そうすればぜったい、わたしでも属性魔法が使える!」


 わたしが胸を反らして断言すると――


「ねぇ……クラリー、わかった?」

「う、ううん……わからない。回路を使ってイメージする……?」

「ボクもわかんないや」

「はぅ、ごめんねアイリンちゃん。私もわからなくて」

「え、えぇー? うーん、じゃあ実際にやってみるしかないね」


 わたしはみんなから少しだけ離れて、中庭の真ん中辺りを指さす。


「例えば、ここに炎の柱を立てるとするでしょ?」

「火属性魔法の、フレイムピラーってことだよね」

「うん。わたしはまず、頭の中に回路を作るの。炎の柱が生まれる、魔法の回路をね」

「……それって、普通にフレイムピラーをイメージするのと違うの?」

「ぜんぜん違うよ! たぶんみんな勘違いしてるかもしれないけど、未分類魔法でだって火はおこせる。二つのイメージは結びつけられるんだよ」

「あ、そういえば、一学期の試験の時、十字の板を回転させて風を起こそうとしてたっけ」

「随分と遠回りな方法ね」

「つまり、炎をおこす未分類魔法を創る、ということですか?」

「そうそう! 本当に回路を作ってそれをやろうとすると、属性魔法に回路が負けて潰されちゃうんだけどね。でも、イメージするだけならできるから」


 頭の中で、炎の柱の未分類魔法をイメージする。

 わたしの未分類魔法は、どうしても属性魔法に負けちゃう性質があるみたいだった。

 だから実際に炎の柱の回路を作ることは出来ない。でも……。


「待ちなさいよ。失敗するってわかってることの、成功をイメージするのよね? そんなこと……できるの?」

「うん、普通できないよね。でもね」


 サキちゃんの言う通り。普通だったら、どうしても失敗のイメージが同時に浮かんでしまう。回路が潰されるイメージに引っ張られちゃう。でも、


「10日前のわたしだったら、できなかったと思う」

「え……?」

「この10日間、属性魔法の基礎を頑張ってきたから。わたしの中で属性魔法が少しだけ大きくなったから。失敗のイメージなんて、浮かばないよ」


 そんなイメージは頭の隅へ、ううん、外側に捨てちゃおう。


 大丈夫。10日前のわたしはダメでも、今のわたしならできる。

 回路と属性魔法のイメージを両立できる。

 いまここに、炎の柱を造ることができる!


 目の前に、一瞬だけ光の筋が、回路が見えて――


 ゴオォォ!!


 広場の中央に炎が吹き上がる。

 渦を巻き、綺麗な円柱となる。

 イメージ通りの炎の柱――フレイムピラーができた!


「やったー!! できた! できたよー!!」


 ちゃんと魔法が発動できて、わたしはその場で飛び上がった。


「す、すごいです、アイリンちゃん! これなら平均点越えられるよね?」

「ええ、越えてるはずよ。でも……ウソでしょ? 回路? なんでそんな理屈で、属性魔法がイメージできるようになるのよ」

「サキちゃんサキちゃん、こう言えばわかる? 未分類魔法の大きな家に回路を作って、隣の属性魔法の箱から汲み上げるイメージだよ!」

「あぁー、それで動力室と海水のパイプなのー?」

「うん! チルちゃんの話を聞いて、そのイメージが思い浮かんだんだ!」

「なるほどね……。サキ、わかった?」

「……動力室が未分類魔法の枠、海が属性魔法の枠、パイプが二つを繋ぐ回路ってことよね……。そういうイメージだってことはわかったけど、でも……えぇ? まず回路の概念があたしには……ああもうっ、こんがらがってきたわ!」

「あははっ、サキがパンクしちゃったー」

「私は少しだけわかったかもしれません。でも……説明が難しいよ」

「え~? わかりやすいと思ったんだけどなぁ」


 みんなにもわかるように話したつもりなんだけど、おかしいなぁ。

 いつも使っている未分類魔法と属性魔法を結びつける。それができたのは――。


「あ、そうだ! ナナシュちゃんの言った通りだったよ!」

「はぅ? 私の、ですか?」

「ひたすら練習した基礎は裏切らない! 絶対に力になるって。属性魔法の基礎ができてなかったら、いまのも失敗してたと思うから」

「おぉー、特訓は無駄じゃなかったってことだねー」

「うん! これまでのことは無駄じゃないっ。わたしの中に、属性魔法の基礎ができてたんだよ!」

「そっか……ふふっ。私の言葉が役に立ったなら、嬉しいな」


 なんで今まで気付かなかったんだろう。

 わたしには未分類魔法しかないけど、そこに属性魔法を少し足すだけで、こんなにも世界が広がるんだ。

 もしかしたら、もっと色んなことができるかもしれない!


「アイリン、今の言葉……」

「うん? どうかした? クラリーちゃん」

「……あはは、なんでもない。やっぱりアイリンはすごいなって思っただけだよ」

「そう? えへへ。あのね、クラリーちゃん。サキちゃん、ナナシュちゃん、チルトちゃんも!」


 みんなの方を向いて、両手を広げる。


「わたし、この学校で属性魔法をちゃんと学びたい! 退学なんてしない、ちゃんと属性魔法も使えるようになる!」


 わたしは後ろにそびえ立つ、魔法学校の校舎を見上げる。

 おばあちゃん。わたしに魔法学校を勧めてくれて、ありがとう。

 わたしのイメージは、これからどんどん広がっていきそうだよ。



「とにかくこれで、中間試験は大丈夫そうね」

「そういうことだねー。いやー、よかったよかった」

「明日の本番まで油断はできませんが、少し安心したね」

「確かに。じゃ、今日はこれで解散かな」


「えっ――待って待って! まだダメなの!」


 帰り支度を始めようとするみんなを、わたしは慌てて止めた。


「まだダメって、なにが……」

「いまのやり方だとね、どんな魔法かちゃんと把握しておかないとできないんだよ」

「まぁ、それは普通そうだと思うけど…………あ」

「クラリーちゃんわかってくれた?」

「回路を作るための理解が必要ってこと? どんな魔法なのか、抽象的な言葉だけじゃダメで」

「そう! いままで属性魔法をそんな風に見てなかったから、もう一度、その」

「……試験で出そうな魔法を見せないといけないってことか……」

「うんっ!!」

「うん、じゃないわよ。嬉しそうに頷いてる場合じゃないじゃない。試験は明日よ? 全属性やらないといけないってことよね?」

「うわー。それ間に合うの?」

「はぅ……間違いなく日が暮れちゃうよ……」

「あぁ――っ!!」


 せっかく属性魔法をイメージする方法を思い付いたのに。このままじゃ……!

 わたしはガシッと、クラリーちゃんの袖を掴む。


「助けて! クラリーちゃん、お願い!」

「……しょうがないな。今日はうちに泊まっていいから。徹夜で特訓するよ」

「ありがとう!!」

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