148「魔法の授業」アイリン


 猫アレルギーの薬。

 わたしたちが夏休みの終わりに作った、アレルギー症状を抑えるための薬。

 魔法学校、回復魔法のボストン先生たちや、国の魔法研究機関、シンさんたちが動いてくれたおかげで、ようやく自由課題の評価をしてくれたみたいだ。


 評価の結果、ヒミナ先輩たちのマナ計測器の方が上ということになったけど、そんな上とか下とかは関係無くて、人体に悪影響は無いと評価されたことの方が重要だった。

 それはつまり、薬を販売してもいいということだから。


「ただ、しばらくはターヤ国内限定だそうです。使われる技術が技術なため、ひとまず国内で様子を見たいと」

「ま……それはしょうがないね」

「はい。シンさんも、そこは学校側と同意見のようです」


 薬には、わたしの未分類魔法、


『呼吸で取り込むマナに魔法を乗せる』


 が使われている。今までにない魔法だから、なにが起きるかわからないもんね。

 ……もちろん、なにも起きないよ! ってわたしは言えるんだけど。


 でも構わない。だって、


「ターヤで販売して、問題なければラワでもアカサでも販売されるんだよね? だったら一歩前進! それだけでも十分嬉しいよ~」


 ずっと保留にされて、世の中に出せなくなっちゃうなんて嫌だったから。本当に嬉しい。


「ふふっ。そうだね。うちではもう、今日にでも販売するつもりです。お母さんには作り方を教えてあるから」

「ナナシュちゃんのお母さん、さすがだよね! 未分類魔法もあっさりできちゃって」

「お母さんは、私の一番尊敬している薬師だから」


 嬉しそうに話すナナシュちゃん。お母さんのこと大好きなんだね。



 キーンコーンカーンコーン……。



「あっ! チャイムが……!」

「ナナシュ、早く戻らないとホームルーム始まっちゃうよ」

「う、うん! それじゃ、また放課後に……あ、サキちゃんにも伝えに行かないと」

「サキには私たちが休み時間に伝えておくから!」


 お願い、と答えながら慌てて教室を出て行くナナシュちゃん。

 教室遠いんだよね……ま、間に合うといいな~……。


「アイリン、いいニュースだったね」

「うん! 本当によかったよ~」


 心配事が一つ消えた。

 よーしっ、これで通話魔法の研究に集中できる!



                  *



「――と、思ったんだけどなぁ」


 あれから数日後。放課後、わたしは教室の机に突っ伏してぐったりしていた。

 部室に行かなきゃって思うんだけど、疲れて身体が動かせない。


「アイリン……大丈夫?」

「う……うんー……」


 クラリーちゃんの声に、顔も上げずに返事をする。

 うんって言ったけど、ぜんぜんだいじょうぶじゃないよ。


「どうしたのよ? これ。なにがあったの?」


 そこへ、もう一つの声。サキちゃんが教室に入ってきたみたいだ。


「サキ……。それがさ、最近属性魔法の授業が厳しくなって」

「そうね、あたしのクラスでも実技が増えて本格的になってきたわ。でも……ここまでなるほど?」

「そんなことない。アイリンが属性魔法苦手ってことを差し引いてもね」

「……え? クラリーちゃん、どういうこと?」


 二人の会話が気になって、わたしはようやく顔を上げた。

 こんなに疲れるほどじゃないってこと? だったらなんで……?

 サキちゃんも首を傾げて、


「よくわからないんだけど?」

「説明するよ。どの属性の授業でもそうなんだけど、やたらアイリンが指名されて、前に出て魔法を使わされるんだよね」

「あ……やっぱり、わたし、当てられるの多い?」


 クラリーちゃんの言う通り。しょっちゅう先生に当てられて、今見せた魔法を使ってみてくださいって、前に出てやらされる。


「だってアイリン、ほぼすべての授業で当てられてるでしょ?」

「うん……」

「ウソでしょ? なによそれ、あり得ないわ」

「わたしが属性魔法ダメだからかなーって、思ってたんだけど」

「それにしても頻度が多すぎる。アイリンが疲れてるのは、そうやって何度も魔法を使ってるからだよ」

「うぅ……」


 確かにその通りだった。

 ほぼすべての授業で当てられて、みんなより多く魔法を使っている。

 でも本当の問題は、その魔法が上手く発動できなくて何度もやり直しをさせられていることだ。そのせいで余計に消耗してしまっている。


「クラリー。すべての授業でって、さすがにおかしいわ」

「うん。私もヘンだなって思ってる。これってさ、もしかして……」


 そこで、二人の言葉が止まった。

 教室に残っていた他の生徒たちの声も止む。そして、



「アイリン・アスフィール。まだ残っているな。話がある」



 その声にビクッとして、わたしは身体を起こした。

 教室に入ってきた、その声の主は――。


 クラリーちゃんが身構えて、呟く。


「……ベイク先生」

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