クラフト22 アイリンの試練

147「がんばって」アイリン


「というわけで、こっちは相変わらずバタバタしてるんだよ~」

「――思った以上に大変そうですね」


 十の月に入ってすぐのこと。

 夜、今日はテレフォリングを遠距離設定にして、ユミリアちゃんも交えて通話魔法で話をしていた。

 こうやってユミリアちゃんと話すのは、実はまだ三回目。

 二学期になって色んなことがあったからっていうのもあるんだけど、ユミリアちゃんの方も忙しいみたい。


「ユミリア、そっちはどう? 部員集め大変なんだよね」

「――はい、クラリーさん。実は今日、ようやく一人協力していただけることになりました」

「ふおぉぉぉ! そうなんだ? よかったねユミリアちゃん!」

「――ありがとうございます」

「よかったわね。それで、どんな子なの?」

「――火属性魔法での演技が得意な女の子です。もともと卒業したらスツ劇団の入団テストを受けるつもりだったらしいのですが、誰かと組むつもりはないと仰っていて」

「へぇ……。個人技に自信があったのかな」

「――そのようです。ですが、炎を恐れず自由自在に操る彼女の演技に、私は惚れ込んでしまいました。毎日毎日、説得を続けたのです。……そして最終的には、私の歌を聴かせました」

「歌を……って、まさかそれで納得させたの?」

「――ええ。少しぶっきらぼうな方なのですが、とてもよかったと、褒めてくださいました。一緒に組んでもいいと」

「いいねいいね! これからもっと仲間が増えるといいね! がんばって、ユミリアちゃん!」

「――はい! 頑張ります」



 ユミリアちゃん、本当にすごいなぁ。

 嬉しそうな声に、こっちまで嬉しくなっちゃう。


 その一方で――わたしは通話魔法の遅延が気になっていた。

 うぅ、やっぱりこんなの完成とは言えないよ。

 遠距離でもちゃんと会話できるようになんとかしなきゃ。



 でも……ここ最近、ぜんぜん手を付けられてないんだよね。

 二学期に入って授業が本格的になってきて、厳しくなってきたし。

 なにより色んなことがあり過ぎた。


 自由課題発表会。せっかく創った猫アレルギーの薬が評価保留にされちゃって……。

 ヘステル先生がやって来て――最初は怖かったけど、本当はすごくいい先生だった。


 そのあとヒミナ先輩、フリル先輩と出会って、マナ計測器の打ち上げを手伝った。

 ……それ以来クラリーちゃんが悩んでいたけど、今はもう大丈夫みたい。


 そう言えばその頃、ナナシュちゃんも随分落ち込んでいたみたいだった。

 わたし気付けなかったんだよね……クラリーちゃんから聞いてショックだったよ。ごめんね、ナナシュちゃん。


 それからチルちゃんも。留学で悩んでいたなんて思わなかった。あの時は本当に、離ればなれになっちゃうのが寂しくてしょうがなくて、ボロボロ泣いちゃったっけ。今でも寂しいのは変わらないんだけど、向こうで頑張ってるチルちゃんを思えば、そうも言ってられない。待ってるからね、チルちゃん!


 だけどその後のサキちゃん。ベイク先生から特別待遇の話を持ちかけられて、なんとクラフト部を辞めろって言われたとか! 酷いよね、まったくもう。

 でもそれを助けてくれたのがクラリーちゃんで、二人でベイク先生を突っぱねてくれた。

 本当によかったよ……。


 そして……クラリーちゃん。

 ナナシュちゃん、チルちゃん、サキちゃんの時はなにもできなかったから。

 せめてクラリーちゃんの力にはなりたくて、少し強引に話を聞きだした。

 だけど実際にわたしができたのは、フリル先輩と話してみたらって提案をしただけ。ほとんどなにもできなかった。

 クラリーちゃんは、自分の力で壁を克服しようとしている。すごいよ。



 この短い期間で色んなことがあって、みんな一回り大きくなった気がする。


 わたしはなにもできなくて、なにも変わってない。

 通話魔法もぜんぜん完成に近付けられてない。


 どうしよう。

 わたし未分類魔法クラフト部の部長なのに……。



『がんばって、ユミリアちゃん!』



 がんばるのはわたしの方だったよ~……。



                  *



 そんなことを考えた、次の日。

 今日こそ絶対通話魔法の研究を進めるぞ! と意気込んで登校すると、


「クラリー! アイリンちゃん!」


 珍しくナナシュちゃんが私たちの教室に駆け込んできた。

 医療薬学科の教室は遠いのに。息を切らせて、驚いた顔で。


「ど、どうしたの? ナナシュ。……まさか」

「なにかあったの!? ナナシュちゃん!」

「はい!」


 もしかしてベイク先生とか、否定派の先生になにかされたんじゃ――って思ったんだけど、ナナシュちゃんはそのまま教室に入ってきて、わたしとクラリーちゃんの手を取り、笑顔になる。



「猫アレルギーの薬の販売許可が下りました!!」

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