141「普通の感覚」クランリーテ


 魔法のイメージについて、フリル先輩に聞いてみる。


 その発想はなかった。

 確かに、ヒミナ先輩に直接聞くよりは聞きやすい。

 翌日、早速話を聞きに行こうとして、


(……なんて聞けばいいんだろう?)


 ヒミナ先輩の魔法のイメージについてなにか知っていますか、って?

 本人に直接聞きなよって言われそう。……いや、フリル先輩は話のわかる人だし、察してくれるかもしれない。でもそれに甘えるのも……。


 なんてことを考えていたら、あっと言う間に放課後。

 とりあえずフリル先輩を探しながら考えよう。と思ったら校門のところであっさり見付けてしまった。ちょうど一人で帰るところみたいだ。

 隣りにヒミナ先輩がいない、今がチャンスなのに――。


 私がどうしようか迷っていると、


 くるっと、フリル先輩が振り返った。


「……あれ? なんか視線を感じると思ったら。クランリーテちゃん」


 視線って……。確かに凝視しちゃってたけど。

 こうなったら仕方ない。私は会釈をして、挨拶をする。


「ど、どうも……こんにちは。フリル先輩、いま帰りですか?」

「そうだね、わたし部活とか入ってないから。クランリーテちゃんは部活?」

「はい……あ、いえ、今日は違うんです、その」

「ん……? あれ、もしかしてわたしに用事?」

「――!! えっと……そうです」


 やっぱりこの人、察しがいい。

 ……それとも私がわかりやすいんだろうか。悩んでることも、クラフト部のみんなにバレていたし。


「ん、なんだろ。わたしに用事っていうと……」

「あっ、その!」


 これ以上甘えるわけにはいかない。ちゃんと自分から聞かなきゃ。

 でも結局なんて聞けばいいんだ? 私は――。


「ヒミナ先輩の魔法のイメージについて、話がしたくてっ!」


 ――出てきたのは、結局ストレートな言葉だった。


「……そっか。あのさ、わたし寄りたいところがあるんだよね。だから、外でもいい?」



                  *



 というわけで、ヒミナ先輩の寄りたい場所に一緒に行くことになった。

 先輩の隣りに並んで歩き出したけど……。


 ちょっと、気まずい。


 歩きながら話をしよう、って意味ではないだろうし。まずは先輩の用事を済ませてからだよね。

 だとすると、今はなにを話せばいいんだろう?

 こういう時アイリンとかなら困らないのかな……。


「到着。ここだよ」

「え? ここは……」


 学校前の通りにある、魔法道具の素材屋さんだ。

 近くて助かった。

 結局一言も話せなかったっていうのも、どうかと思うけど。


「いつもここで素材を買ってるんですか?」

「うん。学校から近いからかな、意外と品揃えがいいんだよね」

「へぇ……」


 街の南側、バスの駅がある通りの方がお店は多い。でも、魔法関連はこの辺りもいいお店が揃ってるんだ。今度サキにも話してみよう。


「あ……そうだ。サキも魔法道具を作るのが得意なんですけど」

「みたいだね。そういえば計測器の仕組み聞きたいって言ってたっけ」

「サキはよく、チルトに素材集めを頼んでるみたいです」

「チルトちゃん? あー……探検家志望だっけ。いいな、わたしも今度お願いしてみようかな? でもいま留学中なんだっけ?」

「はい、アカサに短期留学しています」

「そっかー。ま、そのへんも今度サキちゃんと話してみようかな」


 フリル先輩はそう言って、店の中に入って素材を見て回る。

 私も店内は気になったけど……それ以上に、先輩の背中を追ってしまう。


 ……結局、ストレートに魔法のイメージについて聞いてしまった。

 本当はヒミナ先輩の名前を出さずに聞けないか考えていたんだけど。

 でもそんなことしても、バレてたかな。この先輩にはそんな誤魔化し効かなさそうだ。


 実は昨日、サキがヒミナ先輩から聞いた話を聞いてしまった。



『フリル曰く、ワタシは、フリルのことをまったくわかっていないそうだ』


『フリルにいつも言われるんだ。ヒミナは感覚がおかしい。だから、私のことなんてわからないよ、とね。ワタシはそうは思わないんだが……』



 私は、フリル先輩がどうしてそんなことを言うのか、わかる気がした。



『なによりあれくらい普通できるだろう?』



 普通じゃないですよ。

 私にとっても。きっと、フリル先輩にとっても。


 だから、わかってないってフリル先輩は言うんだと思う。

 そして私たちの普通を、ヒミナ先輩にはわからない。その感覚を知らないから。


 ――マナ欠乏症の苦しみを、友人や家族すらも知らないように。


 ……あぁ、ダメだな。もうそんな風には考えないって決めたのに。

 でも昔のその気持ちのおかげで、今、フリル先輩の気持ちがわかるのかもしれない。

 隣りにいる人に、わかってもらえない辛さを。



「おまたせ。買い物終わったよ」

「あ……はい」


 いつの間にか会計まで済ませていたフリル先輩が、入口の側でぼーっとしていた私の所に戻ってきた。


「大丈夫?」

「す、すみません、ぼーっとしてました」

「ヒミナのことだよね。学校戻るのもなんだし、広場の方で話そうか」

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