140「悩んでいることを」クランリーテ
クラフト部、部室。
一番奥に私が座り、アイリン、ナナシュ、サキは向かい側に並んで座る。
三人はじっと黙って、私が話し始めるのを待っていた。
なんでこうなっているのかと言うと……。
「悩んでること、全部話して!」
「アイリンちゃん……。そうですね。クラリー、私たちに話してください」
「観念しなさい。あたしたちは、その……ライバル、だけど。友だちでしょ」
と、アイリンだけでなくナナシュとサキにも詰め寄られてしまい、返事を待たず部室に連行された。
悩み。
確かに最近、魔法のことばかり考えている。
……やっぱりこれって、悩み、だよね。
しかも今朝になって、もう一つ考えること――悩み事が増えた。明日までになんとかしないといけない悩みが。
最初の悩み、魔法のことはみんなに心配かけないようにって思ってた。
でもサキにはバレていて……いや、みんなにバレていた。心配してくれていた。
だったらもう、話すしかない。
……よし。
「私がここ最近悩んでるのは、もうわかってると思うけど……魔法のことで、それは――」
「ええ、わかっています」
「ヒミナ先輩のことだよね、クラリーちゃん」
「――う、うぇえ? そ、そこまでわかってるんだ」
思わずヘンな声が出た。悩んでいる内容までバレてる?
まぁナナシュは付き合い長いし、勘付かれていてもおかしくないか。
アイリンも……なんだかんだ色々あって、一緒にいることが増えたし。夏休みの時もバレてたっけ。意外とそういうとこ見てるんだよね、アイリン。
「はぁ。クラリー、あのマナ計測器打ち上げの時から様子がおかしいことくらい、みんなわかってたわよ」
「うっ……そうだよね。私、あの時ヘンなこと言ったし」
「でもね、クラリーちゃん。魔法のことで悩んでいるのはわかるけど、魔法のなにで悩んでるのかまでは、わたしたちもわからないんだよ」
「それは……」
「自信を無くしているように見えるわね」
「やっぱり、ヒミナ先輩の魔法を見て、自信を無くしちゃったの? クラリー」
自信を無くした。……そうなのかな?
近いけど、でも。少し、違う気がする。
だけどそれをどう言葉にすればいいのか、どうすれば伝わるのか……。
「クラリーちゃん! いま考えていることを話してくれればいいんだよ!」
「っ!! アイリン……わかったよ」
私はアイリンに言われた通り、自分の思っていることをそのまま話してみることにした。
「こないだ、ヒミナ先輩の魔法を見て、なんていうか……隔たりみたいなものを感じたっていうか。先輩の魔法と、私の魔法。そこに、ものすごい差がある」
「…………」
サキが黙って俯いた。もしかしたら、サキも同じことを感じたのかもしれない。
「私が練習して、集中して、ようやく圧縮の魔法ができるようになったのに、ヒミナ先輩は一回で圧縮のイメージをして……より強い魔法を発動させた。しかも……」
『なによりあれくらい普通できるだろう?』
「ヒミナ先輩にとって、あれは普通だったんだ」
アイリンたちの私を見る顔が、憐憫の表情になり。
思わず、目を逸らした。
……私、いま、どんな顔をしているんだろう。
だけど言葉は止まらなかった。思っていること、全部、みんなに……。
「……成功のイメージができなければ、なにも上手くいかない。ヒミナ先輩はそう言ったけど、でも、普通って言われた瞬間――」
そうだ、あの時から私は。
「――ヒミナ先輩の魔法を越えるイメージが、できなくなった」
自信を無くした。
これだけだとそうとしか聞こえないし、実際そうなのかもしれない。
けど、そうじゃないんだ。
やっぱり、上手く説明できないな……。これじゃみんなに伝わらないよね。
「どうして」
「……サキ?」
「どうして、そう思ったのよ」
「え? どうしてって、だから普通って言われて」
「そうじゃなくて。自分には無理だと思ったから? 絶対に追いつけないと思ったから、イメージができないの?」
「それは……。ううん、違うと思う」
「……そう」
何故だろう、サキは少しだけ、安心したような顔になった。
でも……サキのおかげで、一つわかった。
私は、絶望してイメージができなくなったわけじゃない。
――将来が見えなくなっていた時とは違う。
だから自信を無くしたって言われると、違うと言いたくなるんだ。
「つまり……追いつき方がわからない、ということですか? クラリー」
「……そういうことになるかな。自分の欠点に気が付いちゃったから」
追いつき方……か。
ナナシュの言う通りだ。私がずっと考えていたのは、追い付く方法。それが思いつかなくて、気が付いたのが自分の欠点。
「クラリーちゃんの欠点ってなんだろう?」
「私の欠点は、自分のイメージの幅が狭いことかな」
「えぇぇぇ!? なんで? あんなに魔法を使えるのに?」
「たぶん、逆なんだと思う」
「逆?」
「確かに私は、詠唱無しでも色んな魔法が使える。イメージできる。だから逆に、その枠から飛び出せないんだよ」
「うーん? どういう意味だろう……」
アイリンが首を傾げているけど、私自信はその答えを見付けていた。
「アイリンが属性魔法を使おうとして、未分類魔法になっちゃってたのに似ていると思う」
「わたしが? えっと……」
「私はアイリンと逆だったんだ。属性魔法のイメージがパッと思い浮かんじゃうから、それ以上のことをイメージできない」
「パッと思い浮かぶから…………あー! そっかなるほど! わたしもどうしても未分類魔法を真っ先にイメージしちゃうんだよね。そういう感じかぁ」
以前私は、アイリンは思考のスイッチを切り替えれば属性魔法を使えるようになると思っていたけど。
染みついたイメージの枠を変えるのは、簡単なことじゃないんだって痛感している。
「わたしの場合、未分類魔法の部屋が大きすぎて、なかなか属性魔法の部屋に辿り着けないんだよね~」
「なんなのよその例えは。……それにしても、イメージ力がありすぎるから枠を越えられないなんて、難儀な話ね」
「イメージの枠となると、難しいです。技術でどうにかなるものなのかな?」
「限界を超える! みたいな感じだよね? うーん、どうすればいいのかなぁ」
……みんな、一緒になって考えてくれるんだ。
昨日までずっと一人で悩んでいたけど。
みんなに話して、気付くこともあった。
話してみて、よかったな。……ありがとうアイリン。
「クラリー、ちゃんと呪文を使うようにしてみたらどうかしら? って、それも枠にはまってる感じがするわね……」
「あの、いっそヒミナ先輩に直接聞くのは、どう……?」
「ヒミナ先輩に?! いやぁナナシュ……それは、さすがに」
「……先輩には失礼だけど、ちゃんと説明できるとは思えないわね。そもそも、あの人にとっては『普通』なんでしょ?」
「はぅ、そうでした……」
「ね、だったらさ!」
アイリンが立ち上がって、真っすぐ手を上げる。
「フリル先輩に聞いてみるのはどうかな!?」
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