クラフト21 ひとりじゃないから

139「全部話して」クランリーテ


「やはり……ベイク先生が動いたのね」

「ヘステル先生、ベイク先生が否定派だってわかってたんですか?」

「それはもちろんよ、クランリーテさん」


 サキとのことを――じゃなかった、サキのもとに現れたベイク先生のことを、次の日の放課後ヘステル先生に報告した。

 ヘステル先生は未分類魔法推進派だけど、学校内では厳しい否定派ということになっている。ベイク先生のことを知らないはずがなかった。


「そんなぁ先生、だったら教えておいてくれたらよかったのに~」

「できれば他の否定派の先生のこと、聞いておきたいです……。私だったら、すごく動揺しちゃうと思うから」

「それは無理よ、ナナシュさん」


 ヘステル先生は研究室の椅子から立ち上がる。


「ど、どうしてですか? わかっていれば、落ち着いて対処ができるかもしれません」

「それが駄目な理由よ。……私くらい有名な否定派なら問題はないでしょう。ですが、そうではない先生のことを教えるのはリスクが大きい」

「……そっか。誰から聞いたのかって話になる」

「あっ……」

「そういうことです。なるべく、私から他の先生のことを教えない方がいいのよ」

「はうっ。すみません、そうですよね」


 項垂れるナナシュに、ヘステル先生がぽんと肩に手を置く。


「私からは無理ですが……例えば、オイエン先生から聞くのは自然でしょう。有名な否定派の先生を何人か知っているはずです」

「そっか! おばあちゃんなら! ナナシュちゃんあとで聞きにいってみよう!」

「うんっ。先生、ありがとうございます」


 ナナシュがお辞儀するのを見て、ヘステル先生は椅子に座り直した。

 私は隣りにいるサキに話しかける。


「オイエン先生に聞くって、その考えはなかったね」

「そうね。そもそも否定派の先生のこと、もっと調べるべきだったわ。オイエン先生だけじゃなくて、先輩たちにも聞いた方がいいわね」

「先輩たちに……。うん、確かに」


 思わずサキから目を逸らしてしまう。

 私たちが思い浮かべる、先輩――。



「話を戻しましょう。ベイク先生、あの人は私と同じくらい有名な否定派の先生よ」

「ふおっ、そうなんですか!?」


 ヘステル先生の言葉と、それに驚くアイリンの声が聞こえて。私は顔を上げた。


「先生、ベイク先生はどんな風に有名なんですか?」

「私が正面から直接指導するタイプなら、ベイク先生は周りから崩していき、最終的に言うことを聞かせるタイプね。そのため、生徒の間では評判が真っ二つに分かれているわ」

「確かに、あたしのもそんな感じだったわ……」

「……先程はああ言いましたが、あの狐のことくらいは話しておくべきでした。ごめんなさい、少し用心し過ぎたわ」

「き、きつね……。でも、そんなことありませんよ。搦め手で攻めてくる相手なら、用心に越したことはないはずです。それにサキは、ちゃんと突っぱねましたし」

「サキちゃん、さすがですね」

「あ、あれは――。ま、まぁ? 当然でしょ」


 サキが一瞬こっちを見て、すぐに目を逸らす。

 ……突っぱねたその後のことを思い出したのかな。私も、今思い返すとちょっと恥ずかしい。


「いずれにせよ、あのベイク先生のことです。これで諦めるとは思えません。私の方でも警戒し、なにか動きがあれば伝えるわ」



                  *



「二学期入ってからほんっとーに、色んなことがあるね~」

「……うん。そうだね」


 ヘステル先生への報告を終えて、私たちは火の塔を出る。

 アイリンの言う通り、本当に色んなことがあった。

 私は相変わらずあのことを――魔法のイメージについて、考え続けているし。


 ヒミナ先輩。


 ケタ違いの魔法と、スケールの大きなイメージ。

 魔法で、これほど誰かとの差を感じたのは初めてかも知れない。


 小さい頃、カラー姉さんとキラル姉さんはいつも私の魔法を褒めてくれてた。

 マナ欠乏症だけど、私にはまだ魔法があったから。

 将来が見えなくても、ギリギリ保っていられた。


 ……もちろん、今はそんなギリギリじゃない、「希望」があるけれど。

 だけど、それまで私を支えてくれていた魔法が、こんなにもあっさりと――。


「――ちゃん! クラリーちゃん!!」

「え……あ、ごめん。ぼーっとしてた。なに? アイリン」


 アイリンに袖を引っ張られて、私は意識を引き戻した。

 いけない、みんないるのに。考え事をしてしまった。


「クラリーちゃん。昨日、話せなかったことなんだけど」

「あぁ、そういえば、私のこと探してたんだっけ」


 昨日は結局、アイリンと会えなかった。

 ……わたしがもう帰ったと判断し、街中を駆け回っていたらしい。

 私が学校を出てから通話魔法を使って、もう遅いから明日会ってから話そうと約束していたんだ。

 そのあと夜に通話魔法をして、みんなにベイク先生の件を話していたから……ちょっと忘れていた。ごめん、アイリン。


「クラリーちゃん!」

「な、なに?」


 じっと。アイリンが私の目を見つめてくる。

 いつになく真剣な目だ。なんだろう……。


「悩んでること、全部話して!」

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