138「憧れの隣りに」サキ


「……え? サキ、いま、なんて」

「あなたに憧れていると言ったのよ」


 クラリーの正面に立って、はっきりと告げる。


「中学の時。あたしはずっと魔法の成績トップだった。でも、噂に聞いていたわ。他所の学校に、ほとんど詠唱をしないで魔法を使いこなす天才がいること」

「……えっ、それ私? そんな噂が広まってたの?」

「魔法学校に入学して、実際にあなたの魔法を見て……あたしは打ちのめされた。同い年でこんなにも魔法を使いこなせる人がいるんだって驚いた。素晴らしい、あたしもこんな風になりたいって――」

「…………」


 クラリーは黙って聞いてくれている。少し、恥ずかしそうだけど。


「とんでもない努力をしているんだと思ったわ。才能才能って周りは言うけど、それだけじゃない、きっとたくさん努力をした上での実力なんだって。だから、あたしも頑張って、あなたを越えようとした。周りの人に、才能だけじゃない、努力も必要なんだってわかってもらうためにも、あたしは1位になることに拘ったわ」

「サキ……そうだったんだ。ありがとう」

「っ……」


 そ、そこでお礼を言わないでよ。まだ終わってないんだから。

 あたしは目を逸らしたくなるのを必死に堪える。


「……でも、クラフト部に入って。あなたの本当の姿を知ることができたわ」

「私の、本当の姿?」

「そう。例えば、魔法以外のことはポンコツなところとか」

「えっ!? い、いや、そんなこと…………ある、ね。あはは……」


 お互い少しだけ笑って。あたしは話を続ける。


「クラリーが、本当に努力をしていることもわかったわ。才能を努力で支えていることを。だから、あたしは間違ってなかったって思えた。頑張ってきてよかったんだ。あなたに憧れてよかったんだって」

「っ……サ、サキ? どうしたの急に。そんなこと……」

「……言わないと、伝わらないって。そう教わったのよ」

「え……?」


 あたしはずっと、この気持ちを内に秘めていた。

 あなたに憧れていたこと。そして――。


「今はね、以前とは少し違う気持ちで、あなたを越えたいと思ってるわ」

「以前とは違う? ……どう違うか、聞いてもいい?」


 あたしは黙って頷いて、真剣な顔のクラリーを見つめる。



「――ライバルだと思っているわ。ライバルとして、越えたいと思ってる」



 憧れの気持ちが消えたわけじゃない。

 クラリーの魔法はやっぱり素晴らしいと思うし、一つの目標でもある。

 だけど、後ろから越えるんじゃない。横に並んで、前へ。飛び出していくために。


「わたしが、ライバル……。でも、わたしはそんな――」

「今のあなたが!」

「――!!」


 なにかを言おうとしたクラリーを大声で遮る。


「……今のあなたが、魔法のことで悩んでいることは知ってる。わかってる。でも、あなたがそうやって立ち止まっている間も、あたしは頑張り続けるから。クラリー、あなたを越えるために。努力で越えてみせるために。そのことを理解しておいて欲しくて、こんな話をしたの」

「サキ……」


 困惑した顔のクラリー。

 今の、自信を失いかけている彼女にこんなことを言っても、そうなるだろう。

 でも……どうしても、弱音を吐いて欲しくなかった。


 だって、あなたなら。


 隔たりのある、別次元の才能のヒミナ先輩にだって、手が届くと思うから。


 そのことに気付いて欲しい。前を向いて欲しい。


(――言わないと、伝わらない。でも、自分で答えを出さなきゃいけないこともある……)


 だから、それは言葉に出さない。代わりに、


「クラリー」


 名前を呼んで、その右手をぎゅっと握った。


 すると、だんだんクラリーの顔つきが、いつもの凛とした感じに戻っていく。



「……ありがとう、サキ。サキの気持ち、受け取ったよ」

「言っておくけど、あたしは本気だからね? 次こそ1位を取るから」

「わかってる。……わたしも、頑張るから」


 手を離し、お互い頷き合った。



「ははっ。ね、サキ。わたし、サキと友だちになれて本当によかったよ」

「なっ、なにいきなり恥ずかしいこと言ってるのよっ!」

「えぇー? それサキが言う? さっきの方がよっぽど――」

「ああもう! あたし、先に帰るから! じゃあね! ――あ、アイリンが探してたわよ」

「え、そうなの? わかった、探してから帰るよ。じゃあまた明日」


 手を振るクラリーを置いて、あたしは校舎の中に駆け込んだ。



(あぁ~~~~~~~~~~! ついに言っちゃったじゃない!!)



 憧れてるなんて、ずっと黙っておくつもりだったのに。

 しかもライバルとか!


 もちろん、クラリーに全部伝えるって決意してから話したんだけど。

 それでも……後になってめちゃめちゃ恥ずかしくなってきた!!


 うぅ、変に思ってないわよね? 最後のクラリーのあの様子なら大丈夫だと思うけど。彼女も後になって思い返したら……。


(あぁ~~~~~~~~~~…………)


 どうしよう、明日会いにくいじゃない……。

 その前に今夜の通話魔法よね。

 ……今日は寝ちゃおっかな。眠れるかわからないけど。


(……でも)


 これで、踏ん切りが付いた。スッキリした。

 恥ずかしいし、気まずいけど。でも、後悔はしていない。言ってよかった。


「チル、あたし頑張るから! 次は絶対1位よ!」




未分類魔法クラフト部

クラフト20「隣りにいたいから」

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