137「本当の努力」サキ


「クラリー、今の話、聞いてたの?」

「途中からだけどね」


 専属の講師による特別講習。研究者への紹介もしてくれるという。

 ただし、その待遇を受ける条件は、未分類魔法クラフト部を辞めることだった。


 クラリーはベイク先生を見上げる。


「ベイク先生。否定派なんですね」

「私はどちらとも答えていないが?」

「どっちでもいいです!」

「……やれやれ」


 クラリー? 頭に血が上っているのか、言ってることがムチャクチャだ。

 だけど……こんなにも怒っているクラリーを見るのは、初めてかもしれない。


「先生、サキはそんな待遇受けません!」

「それを決めるのはクランリーテ、君ではなく――」

「サキには、そんなことをしないでも学年1位になれる実力があるからです!」

「え、クラリー……?」


 先生の話は聞かず、一方的に畳みかけるクラリー。

 ていうか、あたしが1位って……。


「先生はサキの努力を認めているみたいですが、本当に努力しているところを見たんですか?」

「それは……もちろんだ。彼女は頑張っているよ。成績がそれを物語っているだろう」

「本当ですか? 話を合わせただけなんじゃないですか?」

「むっ……。君、なにを根拠に疑うんだね?」


 ベイク先生の顔が険しくなっていく。

 この感じ……先生……。もしかして、クラリーの言う通りなの?

 あたしが、才能じゃない、努力しているからだと、そう言ったから話を合わせただけなの?


「サキの本当の努力を知っているなら! そんな待遇受けなくても、クラフト部を辞めなくても、トップを目指せることくらいわかるはずです!」

「っ……クラリー……」


 な……なにを、言ってるのよ……急に……。

 涙が出そうになって、慌てて口元を抑える。


「ふん……。話にならないな。クランリーテ、下がりなさい。私はサキに話をしている。待遇を受けるかどうかは彼女が――」

「!! ――先生っ」


 あたしはクラリーの隣りに並んで、先生の目を真っ直ぐ見る。


「クラリーの言う通りです。あたしがその待遇を受けることはありません。クラフト部も辞めません」

「サキっ!」


「君たち……」


 ベイク先生のあたしたちを見る目が、いよいよ鋭く、恐ろしいものになる。


「……そうか。後悔しないようにな」



 先生はそう言い残し、中庭から出て行った。

 姿が見えなくなって――あたしは溜めていた息を一気に吐いた。


「……っ、はぁ~~~! なにしてるのよ、クラリー」

「な、なにって! その……話してるのが聞こえちゃって。つい」

「あなたが割って入らなくても、断ってたわよ」

「うっ。そう、だよね。あ! サキを信じてなかったわけじゃないよ? チルトにさ、内側は任せたって言われてて。それで……守らなきゃって」

「チルに? ……もう、あの子は」


 瞬時に、そんなことを頼んだチルの意図に気付く。

 まったく、遠くにいても、あたしたちを支えようとするのね。


 チル。やっぱりあなたはすごいわよ。


 だから、あたしも。

 あなたが帰って来た時に、がっかりさせないようにしなくちゃ。



「クラリー。ちょっと聞いてくれるかしら」

「う、うん。なに?」

「さっきも言ったけど、あたしはあんな待遇受けるつもりなかったわ。でも、魔法の成績で1位になりたいとは思ってる」

「……うん」


 神妙に頷くクラリー。自分が1位だから、少し反応に困っている様子だ。

 あたしはそんなクラリーの目を、真っ直ぐに見つめる。



「それはね。……ずっと、あなたに憧れていたからなのよ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る