136「好待遇の条件」サキ
長身細身の男の先生。水属性魔法、ベイク先生。
狐を思わせる細い目が、あたしのことを見ている。
――学年トップになりたくないか?
突然言われた言葉の意味を、あたしは計り兼ねていた。
「あの……先生。それはどういう意味ですか?」
「二つ返事で答えてくれると思ったんだが……いいだろう。まず、君には才能がある。トップになるべき才能だ」
「あ、あたしに、才能ですか?」
確かに、1位は取れなくても学年2位をキープしている時点で成績自体はいいのだから、先生の目にはそう映るのかも知れない。でも、
「……努力をしているからです。あたしのは、才能なんかじゃ」
「ふむ。努力をできるのも才能の内だ」
「それは……」
「そして君は、これからも努力を続けられる。そうだろう?」
「……はい。もちろんです」
ベイク先生は、あたしが努力していることを知っていて声をかけてくれたの?
だったら……。
「君さえよければ、専属の講師を付けたいと考えている。塔にいる研究者を紹介してもいい」
「なっ……えぇ? どうして、そこまでっ!?」
思いがけない好待遇に驚いてしまう。
努力を認めてくれたからって、そこまでしてもらえるものなの?
もちろん願ってもないことなんだけど……。どうして、あたしが? と思ってしまう。
「ふむ、驚くのも無理はないか。一年生にここまでの待遇を用意するのは、我が校の歴史の中でもなかなか無いからね」
「で、でしょうね。あたしも聞いたことがないです」
「わかっているのなら、悩む必要は無いと思うが?」
「…………」
確かにそうなのだけど、どうしても引っかかる。
「あの、なにか条件があったりするんですか? その待遇を受けるのに」
「条件など些細な問題だが……説明しようか。当然のことだが、講習を受けるのは放課後だ。そのため、部活動は一切できなくなる」
「……え?」
「トップを目指すのに部活をする時間は無いだろう?」
「それはっ」
思い出す。クラフト部に入る前、あたしもそう考えていたことを。
クラリーが部活に入っていることを知って憤りを感じていた。部活をしている暇なんてあるのか、真っ直ぐ帰って訓練してると思っていたのにって。
でも、クラリーはクラフト部に入っていながら毎日家で魔法の練習をしていることを知った。努力をしていることがわかった。
だったら、あたしだって。
「ベイク先生、あたし部活は続け――」
「いいか、サキ・ソウエンカ。未分類魔法クラフト部を辞めること、それが唯一の条件だ」
「――!!」
気が付くと、ベイク先生がとても冷たい目であたしを見ていた。
まさか……。
「……ベイク先生。もしかして、未分類魔法否定派ですか?」
「関係ない話だな。だが、だとしたらどうする? まさかそんな理由で、これだけの好待遇を蹴るつもりか? 君はそこまで愚かではないだろう。部を抜けるだけでいいのだ、秤にかけるまでもない」
「なっ……!!」
あくまで部活を辞めさせることに拘っている。
まさかベイク先生、クラフト部を崩そうと考えて……。
そんなの、あたしは!
「先生――!」
「ちょっと待ってください!」
突然誰かが、あたしとベイク先生の間に割って入った。
いや、誰かっていうか……。
「なんですかその話! サキはそんな話に乗りません!」
「ク、クラリー!?」
あたしを庇うように、両手を広げてクラリーが立っていた。
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