135「決めつけないで」サキ
ヒミナ先輩と別れて、あたしは一人中庭に残っていた。
先輩と話をしてだいぶスッキリした。
あたし自身は、まだまだだって思っているけど。
追いかけたいってチルが思ってくれるなら、あたしも頑張ろう。
ちゃんと追いかけてもらえるように、前へ進む。いつまでもウジウジ悩んで立ち止まっている場合じゃない。
そのために、まずは――。
「あっ!! サキちゃぁぁぁん!」
「え、アイリン? うわっ!」
アイリンは突然大声で名前を呼びながら駆け寄って来て、そのまま滑るように隣りに座って――体当たり、抱きついてきた。
「さ、さすがに痛いわよ!」
「いたたた……ご、ごめん~」
ぶつかってきたアイリン自身も痛かったようだ。
抱きつかれるのはだいぶ慣れたけど、今回のは随分と激しい。
「それで? なにかあったの? クラリーとナナシュは一緒じゃないの?」
「うぅ、ナナシュちゃんはまたボストン先生のところ~」
「あぁ……最近多いわね。例の薬のことだから仕方がないけれど」
保留にされた猫アレルギーの薬を評価してもらうための、学校内部の協力者。回復魔法のボストン先生。
薬の説明のために、ナナシュは放課後よく医療回復系の先生たちのところへ通っている。遅くまで残っていることも多いみたいで、チルの留学の話も偶然その帰りに聞いてしまったらしい。
「たまにわたしも一緒に行くんだけど、今日は一人でいいんだって~」
「そうなのね。じゃあ、クラリーは?」
「クラリーちゃんは……用事があるからって……」
「……そう」
これもまた、最近のことだけど。クラリーは部室に顔を出さずに帰ることが増えた。おそらく――。
「クラリーちゃん、魔法のことで悩んでるよね?」
「気付いてたの? ……って、みんなわかってるわよね」
「当たり前だよ~!」
クラリーはクールぶってるところがあるけど、意外とわかりやすい。
顔や態度に出ているのに平静を装おうとするから、逆に目立つのだ。
「でも……わたしじゃどうすることもできなくて」
「どうしてそう思うのよ」
「だって、クラリーちゃん属性魔法のことで悩んでるよね? わたし、属性魔法はぜんぜんだから、力になれないよ」
アイリン、だいぶ属性魔法を使えるようになってきたとは思うけど、成績はまだ下の方。授業についていけているとは言い難い。
だから学年トップのクラリーに、魔法のことで相談に乗ることができないと思ってしまうのは、仕方がないこと。
だけど……。
「力になれないなんて、決めつけたらダメよ」
「……え?」
「ちゃんと話を聞いたわけではないのよね?」
「う、うん」
「属性魔法のことで悩んでいるのは間違いないって、あたしも思うわ。でもね、力になれるかどうかは別の話でしょう? 魔法の、なにで悩んでいるのかまではわからないんだから」
「あ……」
「だから話を聞く前から決めつけたらダメよ。そうやって、勝手に力になれないと思っていたら……クラリーは、一人になってしまうわ」
「一人に……」
隣りにいるのに、隣りにいない。
追いかけてくれなかったら、天才は孤独になっていく。
「……うん、そうだよね。ありがとうサキちゃん! わたしクラリーちゃん探してくる! たぶんまだ校内にいると思うから!」
「あっ……」
アイリンは立ち上がると同時に、呼び止める間もなく駆け出してしまった。
「もう……あたしもクラリーに話があったのに。仕方がないわね」
あたしはテレフォリングを使おうとして――思いとどまる。
校内では使用を控えた方がいいと、ヘステル先生に言われてるんだった。
……しょうがない。あたしも探しに行こう。
「サキ・ソウエンカ。ちょっといいかな?」
「え? あ、はい。なんでしょう、ベイク先生」
立ち上がったところで、校舎の入口から背の高い細身の男の人が出てきた。
水属性魔法を教えている、学年主任のベイク先生だ。
この学校に長くいると聞いているし、お父さんと同じくらいか、もっと上かもしれないんだけど、あまり歳を感じさせないというか、かなり若く見える。
先生はあたしの前までやってくると、突然こんなことを言った。
「学年トップになりたくないか?」
「……え?」
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