134「とても素晴らしいこと」サキ
「フリルにいつも言われるんだ。ヒミナは感覚がおかしい。だから、私のことなんてわからないよ、とね。ワタシはそうは思わないんだが……」
中庭のベンチに場所を移して、あたしたちは話の続きをする。
ヒミナ先輩の感覚が他人とは少し違うのは、あたしも感じていたことだった。
クラリーは、その辺りの感覚の違いにショックを受けていたみたいだけど……。
天才。
この言葉がこれほど相応しい人が他にいるだろうか?
クラリーも天才の部類だけど、まだ背中を追いかけることができる、努力すれば越えられると、あたしは思える。
でもヒミナ先輩は、別の次元にいるみたいだった。
こないだだって、こんなすごい人がいるんだと感心するよりも前に、ゾクリとして怖くなったから。
越えることはもちろん、追いかけることもできないような隔たりを感じてしまった。
(もし、クラリーがヒミナ先輩を目標にするのなら……とても険しい道になるわね)
でも……。
「サキ? 大丈夫かい?」
「あっ、すみません。……先輩、フリル先輩にわからないって言われて、ショックじゃなかったですか?」
「さっきも言ったが、ワタシ自身は理解できていないと思ってないんだ。だからショックよりも、フリルがどうしてそう思うのかが疑問でね」
「そ、そうなんですか……」
あたしだったらショックで耐えられないかも。今ですら、こんなに悩んでしまうんだから。
というか、疑問に思ってしまう時点でわかっていないってことよね?
でも理解しているということを理解してもらえないから起きる疑問で理解はしているということでもあって……ああもう、よくわからなくなってきたわ。
「そもそもね、フリルはいつも本気を出さないんだ」
「本気……? え、でもマナ計測器は」
「あぁ、魔法道具関連に関しては別だね。けど魔法は……。ワタシもフリルも属性魔法科なのだが、彼女はいつも平均的な成績に収まっているんだよ」
「真ん中くらいにいるってことですか?」
「そう。本当ならもっと上を狙えるはずなんだ。それだけの実力がある。しかし、試験ではその本気を出そうとしない。上に行く意思がないんだ」
「上に行く意思、ですか」
フリル先輩は、どこか現実主義なところがあるように思う。
ヒミナ先輩のストッパーとして板に付いているからというのもあるけれど。
でもだからといって、授業でまで抑える必要はない。
ヒミナ先輩の言う通り平均よりも上の実力があるのなら、それを見せないのはどうしてだろう?
「ワタシはね、それが悲しいんだよ」
「フリル先輩が実力を見せないことが、ですか?」
「いいや、上を目指さないことがだよ。なんて言うのかな、隣りにいるのに隣りに来てくれない。矛盾しているが、そんな感じなんだよ」
「……なんとなく、わかる気がします」
「だからね、ワタシは君が羨ましいよ」
「えっ? ど、どうしてですか?」
「追いかけて、隣りに並ぼうとしてくれるパートナーがいる。ワタシには、それが素晴らしいことに見えるのさ」
「あ……」
そっか……。
あたしは、チルの隣りを歩いてきた。ずっと。
でもチルは、あたしが前を歩き出したように見えた。感じてくれた。
その差を埋めるために。頑張ろうとしてくれている。
……確かにそれは、とても素晴らしいことなのかもしれない。
「ありがとうございます、ヒミナ先輩」
「サキ、やっと晴れやかな顔になったね」
「おかげさまです。……ところで、さっきの話、フリル先輩には?」
「もちろん何度もしているよ。なかなかちゃんと聞いてくれないけどね」
「そうなんですか……」
「でも、言わないと伝わらないだろう? だからワタシは、わかってくれるまで何度でもフリルに言うつもりだよ」
「伝わると、いいですね」
言わないと伝わらない。あたしは――。
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