131「素直な気持ち」チルト


「みんな!!」


 ボクは勢いよく部室のドアを開いた。

 よかったー、まだみんないる。

 突然入ってきたから驚いてるよね……あれ?


「チルト……? あ、あのさ、いま――」

「チ~ル~ちゃぁぁぁぁぁん! 留学しちゃうのー!?」

「えっ!? アイちゃんなんでうわぁぁ!」


 突っ込んできたアイちゃん。腰に抱きつかれてそのまま後ろに押し倒されてしまった。


「いたたたー……。なんでアイちゃんが知って……あ、そっか」


 泣きそうな顔で駆け寄ってきたナナちゃんを見て、ボクはすべてを察した。


「ごめんなさいっ! チルトちゃん。……どうしても隠しておけなくって」

「気にしないでナナちゃん。ボクの方こそ、ごめんね。隠し事なんてお願いしちゃって」


 ナナちゃん隠し事とかできなさそうだからなー。

 様子がおかしいことに気付いたクラちゃんかサキが追求したのかも。


「チルト。ナナシュは、言うかどうかずっと迷ってたよ」

「はぅ……。でも留学なんて大事なことを、みんなに黙っているなんて……そんなこと、できませんでした。だって……」

「わかってる。だからね、えーっと……アイちゃん、一旦離れてくれるかなー」

「ヤダ! チルちゃん行かないで! ずっと一緒にいようよ~!」

「アイちゃん……」


 困ったな。これから留学の件を説明しようとしたのに。話しづらくなってきた。

 そういえば、サキはなにも言ってこないけど……。


「…………っ」


 一番後ろでこっちを見ていたサキと目が合う。

 サキは慌てて目を逸らしたけど、すぐに向き直った。


「アイリン、チルから離れて。とにかく話を聞かないと始まらないわ。チル、そのために来たんでしょ?」

「もちろんそうだよ。アイちゃんありがとね。ちゃんと話したいから、ね?」

「うぅ~……わかったよぉ」


 アイちゃんがしぶしぶ離れて、クラちゃんになだめてもらってる。

 みんなテーブルを囲んで座ると、早速サキが身を乗り出してきた。


「さあチル。みんなに説明して」

「うん。実はね、アカサの学校から留学のお誘いが来てるんだ。でもボクはこの学校で探検家になるって決めてたから、断ろうとしたんだよね。でも最近色々あって、バタバタしてたでしょ? それで思うところが……あって……」

「……チル?」


 ボクは話の途中で言葉を止めた。

 違うよね。ボクがしたいのは、そんな話じゃない。


「今のボクは、留学に行きたいと思ってるんだ!」


「うわーん! やっぱり行っちゃうの!?」

「はぅ……」

「ていうか、なんか話飛んだような……。チルトらしいけどさ」

「そ、そうよ。もう少し、行こうと思った理由とかあるでしょう?」


 留学しようと思った理由。

 そうだね、それは話さないとダメか。


「サキってさ。夏休みに色々あって、変わったよね」

「えっ? な、なによ突然」

「落ち着いてるっていうか、大人になった感じする」

「そ、そんなことないわよ。急になんなのよ」

「……チルトの言いたいこと、私、わかるかも」

「そうですね、私も……」

「うんうん。すっごく頼もしくなった感じするね~」

「なっ、ちょっと、やめてよ……もう」


 顔を真っ赤にして照れるサキ。

 こういうとこは変わらないんだけどねー。というか変わって欲しくないな。


「みんなが認めてるように、サキは変わった。でもさ、ボクはどうかな? なにも変わってないよね」

「チル……あなた」


 今の一言で、ボクがなにを言おうとしてるのか。サキにはわかっちゃったみたいだ。

 さっすが幼馴染み。


「ボクも成長しなくちゃって考えてたんだよねー。そんな時、タイミング良く留学の話が来たんだ。ビックリしたよ」


「はぅ……チルトちゃん、そんな風に考えてたんですね」

「チルちゃん! わたし、チルちゃんを応援したい! したいけど、でもやっぱり寂しいよう~」


「アイちゃん……。ボクもね、寂しいよ。だから留学に行くかどうか悩んでた。行きたいという気持ちと、寂しいという気持ちがぶつかり合ってたんだよ」


 そのことをハミに言われるまで気付けなかった。……というのは、黙っておこう。

 なんかやっぱり悔しいから。


「でもさ。ボク、サキの隣りを並んで歩きたい。その気持ちの方が勝っちゃったから、成長してくることにしたんだよ」


 それが、ボクの素直な気持ち。


 あぁ、サキがすっごく驚いた顔をしてる。

 ボクは結構なんでも思ったことを口にする方だけど、ちゃんと周りを見て、表に出す気持ちは選んでる。

 だからここまで素直にはっきりと言葉にするのは、サキにとって珍しく感じたに違いない。


「チルちゃん……! わかったよ、そこまで言うなら……わたし、止めない! 寂しいけど、応援、するからね! テレフォリングでいっぱい話そうね!」

「ありがとう! それに一ヶ月だけだからね。あっという間だよ」

「うん、そうだよね。一ヶ月…………え?」


 みんなの動きが一斉に止まった。


 ……あー。やっぱり。そんな気はしてたんだ。


「い、一ヶ月? チルト?」

「ちょっとチル! 短期留学なの!?」

「はう! ……は、はう? わ、私……え?」

「そーいえばあの時、留学としか言ってなかったかー。長期留学が無理なら短期留学でもいいよーって言われてるんだ。だから、行くなら短期留学のつもりだったんだよ」

「あ…………ということは、つまり、私の早とちり……ですね。はぅ……みんな、ごめんなさい……」


 むちゃくちゃ申し訳なさそうにナナちゃんが頭を下げてる。

 今回、ものすごくナナちゃんに迷惑かけちゃったな。あとでちゃんと謝っておこう。


「うぅ……でも、一ヶ月でも寂しいよ……」

「……アイちゃんっ」


 ボクは思わず、アイちゃんに抱きついていた。


 だって、その気持ちはボクも同じだったから。


「チルちゃん!」

「へへっ。ボクも寂しいんだ。だから留学するまで、なるべくみんなと一緒にいる!」

「ふおおお! そうだね、一緒にいようね! うわーん!」


 ……泣いてくれるんだね、アイちゃん。

 アイちゃんと出会えて、友だちになれて。本当によかった。


「まったく。チルト、日程とかわかったら教えてよ。今度は早めに!」

「もっちろん。あ、クラちゃん。ちょっと来て」

「ん?」


 アイちゃんと抱き合ったまま、クラちゃんに手招きをして、そっと耳打ちする。


「ボクね、一度ここを出て、外からターヤを見てみるよ」

「えっ……チルト?」


 先日のマナ計測器打ち上げの時から、クラちゃんが魔法のことで悩んでるのは知ってる。

 でもだからこそ。クラちゃんにお願いしておかなくちゃいけない。


「だからさ。クラちゃん。内側は、任せたよ?」

「…………」


 クラちゃんは黙って頷いてくれた。さっすが、頭の回転が速い。


 それに、少しだけ顔つきが良くなった。

 今はなにか目的があった方がいいと思う。


 がんばってね、クラちゃん。



「よーっし!!」

「うわぁ!」


 ボクはアイちゃんから離れて、勢いよく立ち上がる。


「じゃ、ボク先生のとこ行って、留学の話受けてくるね!」

「ってチルト、まだ先生に話してないの?」

「うん! 真っ先にみんなに話したかったから。というわけで、行ってくる!」


 部室から飛び出そうとして――


 パシッ!


 サキに手を掴まれた。


「ま、待ちなさいよ、チル」

「――サキ?」

「あ、あたしは、その……。なんていうか、まだ……」


 俯いて、もじもじと。言いたいことが固まっていない様子のサキを見て。


 ボクは、口元に笑みを浮かべた。


「もーしょうがないなー。今日サキの家に泊まる!」

「えっ? それは、構わないけど……」

「いっぱい話しよ! ね!」

「……わかったわ。覚悟しなさいよ」

「えっ。う、うわぁ~……」


 あ、これサキに相談しなかったことかなり怒ってるっぽい。

 明日も学校あるんだけどなー。ま、しょうがないか。覚悟しよう。



「みんな、待っててね! 絶対成長して帰ってくるから!!」




未分類魔法クラフト部

クラフト19「チルトの選択」

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