129「影から支える」チルト


「……なるほど、そんな話が出ているのね」


 薄暗くなった公園のベンチに座り、ボクはヘステル先生に留学のことで悩んでいることを話した。自分が思っていること、考えていることも。


「確かにアカサ王国の技術は高い。探検家を目指すならば、話を蹴る理由は無いでしょうね」

「ですよねー……」

「それに、チルトさんがターヤの魔法学校に疑念を持っているのなら。外側からターヤを見ることは、見識を広めるいい機会になるはずです」

「外側から、ターヤを……?」


 それは考えたこともなかった。

 ボクは今、魔法学校を信用できなくなっている。それはきっと、ここにいたらずっとそのままだと思う。先生の言う通り、一度ターヤを出て外側から見るべきかもしれない。きっとそれはみんなの役に立つはず。


「チルトさんがそこまで色々考えているのは、少し意外ね。……いえ、むしろ当然と言うべきかしら」

「え? えっと?」

「あなたたちと話をするようになってからまだ数日ですが、あなたはいつもふざけるような振る舞いをする。でも、一番周りを見ているのもあなたね」

「ぼ、ボクが? そうかな~。サキとかのが見てると思いますよ」

「サキさんはそうですね。他の先生から聞いた評判よりも、落ち着いている感じがします。ですがチルトさん。あなたのそれは、サキさんとは違う」

「サキとは違う?」

「物事の裏側まで見通す、知識による視野の広さを持っている。探検家のご両親のおかげかしらね。それに頭の回転も速い」

「せ、先生? そんなに褒めないでくださいよー」


 ……あ~でも、たぶん先生の言ってることは正しい。頭の回転とかについてはともかく。

 さすがだなぁ。ボクも先生のこと、認識を改めないとかな。


「あなたは未分類魔法クラフト部を影から支えているのね」

「アハハ。それ、ちょっとカッコ良くていいなー」


 影から支える、か。だよね、ボクのポジションはそんな感じだ。


「少し話が逸れました。……チルトさん。留学の件、最終的に決めるのは、あなた自身です」

「……うん。やっぱり、そうなりますよね。両親に話してもそう言われそだなーって思ってました。でもそれが決められないんですよー」

「それでいいんですよ」

「え?」

「悩んで、悩み抜いて答えを出しなさい。人にこうしなさいと言われて決めることではないでしょう? 自分の心で決めなさい」

「自分の心で……」


 先生がベンチから立ち上がる。


「私が言えるのはここまでね。チルトさん、もう暗いから…………」

「ヘステル先生?」


 先生が途中で言葉を止めてしまう。

 珍しい。なにかに驚いているようだけど、視線の先には……あ。


「チルトちゃん……今の、留学って……本当、なの?」

「ナナちゃん。いつから聞いてたの?」


 公園の入口に、ナナちゃんが立っていた。

 留学の件、バレちゃったか。

 ボクもベンチから立ち上がってナナちゃんに向かい合う。


「アカサの学校から留学の話が来てるは本当だよ。行くかどうか迷ってるのもね。だから――」


「……チルトちゃん、アカサに行っちゃうの?」


 何故だろう。ボクは思わず、ナナちゃんから目を逸らしていた。

 すぐにそのことに気が付いて、視線を戻す。


「――やだなぁそれを迷ってるんだよー」

「チルトちゃん、でも……」

「だからさ、ナナちゃん。みんなにはまだ黙っておいて欲しいんだ」

「えっ……」

「答えを出したら自分から話すから。ね?」


 ナナちゃんはすごく困った顔をしていたけど。

 最後には、黙って頷いてくれた。

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