128「相談したいけど」チルト
「それにしても、お店にシンさんが来た時は本当に驚きました。城の人がどうして? って」
「だよね。私も驚いたよ。それがまさか猫アレルギーの薬の件だったなんて」
「ふおお! わたしもナナシュちゃんのお店に行けばよかったな~」
放課後。ボクたちはクラフト部の部室に集まって話をしていた。話題は当然、一昨日のこと。昨日会った時はもちろん、通話魔法でも同じことを話してるのに、まだまだ話し足りないみたいで今日もその話題から始まった。
「でも本当に不思議だね~。どこでわたしたちの薬のこと聞いたんだろう?」
「それね。まったく心当たりないんだよ」
「あの発表会の時にいた、学校の誰かなんでしょうか」
「うーん、どうかなぁ。それよりも誰かの知り合いって可能性が――」
「し、城の人でしょ? ほら、魔法騎士の、ミルレーンさんかもしれないじゃない?」
サキがちょっと不自然な感じで割り込む。そんなんじゃバレるよ?
と思ったけどクラちゃんたちは気付かなかったようで、その可能性を考え始める。
「あぁー……。いやでも、ミルレーンさんに薬の話してないよ?」
「でも私たちのことを気にかけてくれています。どこかから話を聞いたのかもしれないよ。それに、シンさんはクラリーの名前も知っていました」
「なっ! ……へ、へぇ~? そうなのね」
「そういえばそうだった。そっか、魔法騎士の第四隊はそもそも調査とかが主な仕事だから、ミルレーンさんの可能性はあるね」
それはどうかなー。今は例のナハマ空洞の探索のことで忙しいはずだよ。
……なんてことは言わないでおこう。内緒にするって約束しちゃったし。
「今度会えたら聞いてみよう」
「そうですね。本当にミルレーンさんのおかげなら、きちんとお礼を言いたいから」
違うんだけどね。今はそう思っておいてもらおう。
にしてもサキ、思いっきり顔に動揺が出ちゃってるよ。
落ち着いたとはいえ、こういう時は素が出ちゃうみたいだ。逆に安心する。
さて……と。話が一区切りしたかな。
「あのさ、みんな。話は変わるんだけどー」
「なになに? チルちゃん!」
先生からアカサ留学の話を持ちかけられたんだけど、みんなどう思う?
「…………」
「……チル? なによ、早く言いなさいよ」
「え? あ、うん。えっと……アイちゃん、通話魔法って今どのくらいまで届くの?」
ボクは咄嗟に、まったく違う話題を振っていた。
「うぐっ。まだ改良に手を付けられてないよ~。今のテレフォリングの遠距離用なら、たぶんアカサやラワまで届くとは思うんだけどね」
「すごいね、アイリン。どこにいても一応話はできるんだ」
「ううん! クラリーちゃん、だめなんだよ~。昨日もユミリアちゃんと話すの大変だったでしょ? あんなに会話に遅延が起きちゃうなんてだめだめだよ~」
「あはは……。そういえば昨日ユミリアが、部員集めが上手くいってないって――」
そこから、話はユミちゃんのことになってしまって。
ボクは留学の件を切りだすタイミングを失った。
「……チル? なんか変ね?」
「そんなことないよ? ボクはいつも通りだよー」
サキは鋭かったけど、ボクはいつもの感じで返す。……返せちゃうんだ。
*
「はぁ。困ったなぁ」
クラフト部のみんなと別れたあと、ボクは一人学校の近くをウロウロしていた。
アカサへの留学。
本当なら相談した方がいいのに、やっぱりできないよ。
でもボク一人じゃなかなか答えを出せない。
お父さんとお母さんは、たぶん自分のしたいようにしろって言うよねー。
「でもなぁ……。したいようにした結果が、今なのに」
留学しないで探検家になる。
自分で決めたことなのに。やっぱり留学するって、おかしいよね。
「はぁ……」
「チルトさん? まだ帰っていなかったの?」
「え……あ、ヘステル先生」
ボクとしたことが、声をかけられるまで学校から出てきたヘステル先生に気付けなかった。ダメだなぁ、ぼーっとしてる。
「浮かない顔ね。なにかあったのですか?」
「いや~……」
ヘステル先生……か。
先生になら、留学のこと話せるかも。
「あの、先生。相談があるんです」
「……珍しいですね。チルトさん、例の件なら研究室で話しましょう」
例の件? あ、未分類魔法のことか。
確かに誰が聞いているかわからない場所で、ヘステル先生とその話はできない。
「違います違います。実はボク、留学の話が――」
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