127「タイミング」チルト


「チルトさん。アカサ王国の学校に、留学してみませんか」


「――――!!」


 冒険科の先生に呼ばれて、職員室。

 予想もしていなかったその言葉に、ボクは言葉が出なかった。


「あぁもちろん、チルトさんが留学を頑なに断っていたことは聞いています」

「……はい」


 真っ白になっていた頭が、すぐに回転を始める。


 このタイミングで留学の話?

 ボクが驚いたのは、昨日、自分がこのままでいいのかって、ちょっとだけ考えていたから。そこに留学の話が飛び込んできたもんだから、タイミング良すぎ! ってなった。


 でもそれは偶然そうなっただけ。

 それよりも考えるべきは、自由課題のことで色々動き出したこのタイミングで、アカサへの留学が持ち上がったということ。こっちのタイミングの良さは問題だ。


「先生、知ってるなら話は早いですよー。ボクは留学しませんよ?」

「ふむ……。チルトさんも知っていると思いますが、冒険科の授業の質は、間違いなくアカサが一番です。なにより未開の大陸への船が出ています。多くの探検家が集い、その知識を授けてくれます」

「わかってますよー。そのへんはボクの両親が探検家なので問題ないです」

「だとしてもです。より多くの探検家の話を聞くことは、必ずプラスになるのではないですか?」

「それはー……そうですけど」


 お父さんとお母さんは探検家として大事なことを教えてくれる。

 でも色んな人の教えを聞くのも必要なこと。それぞれに、やり方や考え方があるんだから。どんどん吸収して自分の力にするべき。


 ……って、こんなこと考えちゃうのも、昨日のせいかな。


「なによりこれは、あちらの学校からのお誘いでしてね」

「……え? そうなんですか?」

「はい。是非、留学に来てみませんかと。長期の留学が無理なら、一ヶ月ほどの短期留学でも構いませんとのことです」

「えっ! 一ヶ月でもいいんだ……」


 あれれ。だとしたらちょっと話が変わってくる。

 向こうからの誘いとなると、時間的にも自由課題の件とは関係なさそう。

 それに、一ヶ月で戻ってこれるなら……。


「今すぐの返事でなくても構いません。少し、考えてみてもらえますか」

「……わかりました」


 ボクはお辞儀をして、職員室を出る。



 前までのボクなら、その場で断っていたのに。

 どうしよう。すごく揺れている。


 ボクはこの学校で探検家になるって決めていた。

 サキと一緒の学校に通って。サキに魔法士になってもらって、一緒に遺跡探索に行きたかったから。

 おかげでクラフト部のみんなとも会えたし、今では五人で遺跡探索に行きたいと思っている。

 だから、留学しなかったことを後悔したことは一度も無い。


 ……でもここ数日で、ターヤの魔法学校の思想がどれだけ偏っているか知ってしまった。

 四大属性がすべての学校だとはわかっていたけど、想像以上だった。


 本当に、この学校で学び続けていいのかな。



 困った。本当の本当に、すっごく揺れちゃってる。


 ボクは、このままでいいの?


 本当の本当に。タイミング良すぎだよ……。

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