クラフト19 チルトの選択

126「このままでいいのかな?」チルト


「……ということがあったんです、ヘステル先生。城内魔法研究機関と医療薬学科の先生。両方が動いてくれたら、きちんと評価されるでしょうか?」

「そうね、クランリーテさん。いくら否定派に権力があっても、そこまでされたら動かざるを得ないでしょう」

「よかった……!」


 ヘステル先生の研究室に集まった、ボクたち未分類魔法クラフト部。

 昨日の夜に通話魔法で聞いたナナちゃんの話を、そのままヘステル先生に報告していた。

 あの自由課題の発表会から一週間。ようやく事態が動き出した。


 まー、当然だよね。


『呼吸で取り込むマナに魔法を乗せる』


 なんて。そんなの放っておけるはずがないんだよ。きっとどこかが痺れを切らして動き出すと思っていた。

 なんなら学校側が研究を否定して、研究を破棄するように言いに来てくれてもよかった。それならそれで対策できるし、いくらでも動きようがある。

 この辺りの話をしてもきっとみんな納得しなくて、モヤモヤしちゃうだろうから黙ってた。……あ、サキならわかってくれたかも。最近、なんかちょっと落ち着いた感じするし。冷静に聞いてくれたかもしれない。


 ……ていうか、そうだよ。それよりもサキだ。

 ボクは部屋の隅にこそっとサキを引っ張って、耳打ちをする。


「ね、城内魔法研究機関の人って、サキのお父さんでしょ?」

「っ!! ……そうよ」

「あっさり認めるねー」

「チルには隠せないでしょ。あたしのお父さん知ってるんだから」

「まあねー。で? ナナちゃんたちに教えないの?」

「教えない。チルも、内緒にしておいて」

「なんでー? それくらい教えなよー。ナナちゃんたち絶対喜ぶよ?」

「い、いいのよ。……ナナシュ自身の力だって思って欲しいから」

「ナナちゃんの……」


 ナナちゃんの努力と言葉が、周りの人を動かした。

 確かにそれはナナちゃんの自信に繋がる。

 でも、サキだってその動かされたうちの一人だってこと、気付いてないのかな?

 だから教えても問題ないのに。


「しょうがないなー。けど、いつかバレると思うよー?」

「その時はその時よ」

「ふーん。じゃ、ボクも黙っておくよ」

「ありがと、チル。さ、戻りましょ」


 うーん……やっぱりサキ、変わったよね。

 間違いなく夏休みにスツに行った辺りから。

 前よりずっと冷静で、落ち着いてて。大人になった感じがする。

 周りのこともよく見るようになったし。


 みんなのところに戻っていくサキの背中を見て、


「……ボクは、このままでいいのかな?」


 ポツリと、誰にも聞こえない声で呟いた。




 そんなことがあった後だったから。

 次の日職員室に呼ばれて、ボクはとても驚いた。


 冒険科の担任の先生はこう言った。


「チルトさん。アカサ王国の学校に、留学してみませんか」

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