125「その涙を知っていたから」ナナシュ/??
「城内魔法研究機関!?」
思い出した。あの詰め襟のジャケット。お城に務めている人の正装なんだ。
ターヤ王国城内魔法研究機関……。どうしてそんなところの人が、私を訪ねに?
クラリーと顔を見合わせて、首を傾げてしまう。
「混乱されているようですね。私がここへ来たのは、ナナシュさんが創った薬の話を耳にしたからです」
「えっ……もしかして猫アレルギーの薬ですか?」
「そうです。なんでも、魔法学校の方で評価を保留にされているとか」
「は、はい! そうなんです、でも……」
誰から聞いたんだろう?
ボストン先生?
……ううん。さっき話したばかりだし、早すぎる。それに先生は学校内で動こうとしていた。学校外の、城の研究機関にいきなり話が行くとは思えなかった。
「それだけあなたの薬は注目されているということですよ」
「は、はぁ……」
「あの、すいません。えっと……シンさん。猫アレルギーの薬がどうかしたんですか?」
「あなたはクランリーテ・カルテルトさんですか?」
「!? ……はい、そうですけど」
「なるほど。……では、私の用件をお話ししましょう。猫アレルギーの薬。もしナナシュさんが――みなさんがよろしければ、私たちの研究機関で検査をしたいと考えています」
「はぅ……城で検査してもらえるんですか? それは願ってもないことです!」
城の研究機関で評価してもらえれば、きっと販売の許可も出るはず。だったら検査してもらわない手はない。
「待ってナナシュ。確か、城の研究機関ってそこまでは……」
「はは。クランリーテさんは詳しいようですね」
「ど、どういうことですか?」
研究員、シンさんは眼鏡をくいっと持ち上げる。
「魔法や薬の評価、販売などの許可は、魔法学校の検査が優先されるのが現状です。こちらが認めても、学校側が認めなければ……許可は出せないということです。逆に学校側が許可を出せばそれがそのまま通ります。もちろん、余程のことがあれば止めますが」
「えっ……じゃあ」
「大昔は違ったようなのですがね。残念ながら、今の私どもに当時のような力はない」
「そうなんですね……」
期待した分、がっかりしてしまう。だったら……。
「城に研究機関などいらないのではないか。そう思いましたか?」
「い、いえ……!」
「いいんですよ。……それでも研究機関があるのは、もしもの時のストッパーになるためです」
「ストッパー、ですか?」
「先ほども言いましたが、余程のこと、例えば見過ごすことのできない危険に気付いた場合など、学校側の許可を止めることができます。つまり、学校側も城側をまったくの無視はできないのです」
学校側の方が力が強くて、基本的には学校側の意見を通すけど……でも、城側がなにもできないわけではなくて、いざとなれば止められる、ということなのかな。
「今回は、それを利用しようと考えています」
「えっと、どういう意味ですか?」
「私たちの方でしっかり検査をし、問題が無ければ。学校側も、いつまでも保留にしておくわけにはいかなくなる。保留にしている間は、こちらの結果を否定することもできませんからね」
「あっ……!」
学校は城の研究機関を無視することはできない。
つまり城が出した検査結果に対し、学校も答えを出さなきゃいけない。
私たちの研究を忘れ去られるまで放っておくということができなくなる!
「ナナシュさん。私たちは厳正な検査を行います。その結果問題が無ければ、販売の許可を申請します。ですので、是非私たちに任せてもらえませんか?」
「……はいっ! よろしくお願いします!」
よかった!
私たちの創った薬は、無駄にならない。困っている人の元に届けられる。
「ただ、その後学校側が動き、検査をして不許可と判断した場合、やはり販売の許可は通らなくなる。ですので、予め話のわかる関係者とお話をしておきたいのですが、適任者に心当たりはありませんか?」
「話のわかる人……それなら、回復魔法のボストン先生が――」
私はさっきボストン先生と話したことを、シンさんとクラリーに話す。
「そんなことがあったの!? そっか、だからさっき……」
「うん! 学校にも、味方になってくれる先生がいるってわかったんです」
「なるほど、それは心強い。すぐにでも連絡を取ってみましょう」
「お願いします!」
城の研究機関に、学校の医療系の先生たち。
これだけ味方がいれば、きっと……。
「はぅ……よかった。みなさんがいてくれて。本当にありがとうございます……」
「ナナシュさん、あなたは――」
シンさんが近付いてきて、私の顔をじっと見つめる。
「な、なんでしょう?」
「もう少し、自信を持った方がいいでしょう」
「……え?」
「あなたは今、みなさんがいてくれて良かったと仰った。でもね、違うんですよ。あなたが、周りの人を動かしたのです。あなたの言葉と、行動が。味方になりたいという気持ちにしたのです。……私がここに来たのも、そういった動きの連なりによるものですから」
「わ……私、が……」
「そうだよナナシュ。私も前から思ってた。自分がすごいことをしてるんだって、もっと自覚して欲しい。すごいでしょって、自信を持って言って欲しい」
「クラリー……」
自信を持つ。
自分がすごいことをしているんだって、しっかり自覚する。
……難しいなぁ。って、思っちゃうのは。たぶん、これが私の性格だから。
きっとすぐには自信を持つことはできない。だけど……。
「……はい。ありがとうございます!」
この先、猫アレルギーの薬がきちんと評価されたら、その時は。
胸を張って、あの信念の言葉と共に。すごい薬を創りましたって、言えるかもしれない。
「それでは私は、これで失礼します」
「あっ、はい。シンさん、本当にありがとうございました!」
「ありがとうございました!」
シンさんは会釈をして、お店から出て行く。
「……にしてもさ、いったいどこで猫アレルギーの薬のこと聞いたんだろう?」
「そういえば、詳しくは教えてもらえませんでした」
『私がここに来たのも、そういった動きの連なりによるものですから』
と言っていたから、誰かから聞いたんだと思うけど。まったく心当たりがない。
伝えてくれた人にお礼を言いたいけど……薬が評価されたら、名乗り出てくれるかな?
「ま、いっか。ナナシュ、夜にみんなに報告しないとね」
「うん、そうだね。……ふふ。楽しみです」
*
「やっと出てきた。長かったじゃない」
「おや……待っていたんですか?」
「当然でしょ? あたしが頼んだんだから」
「ふむ。ちなみに私は、城に寄ってから帰りますよ?」
「わかってるってば。送っていくから、その……どんな話をしたのか、聞かせてくれる?」
「なるほど、そちらがメインというわけですね」
「なっ、そんな、ことは……ちょっとあるけど。父さんに、お礼も言いたかったから。ありがとう」
「構いませんよ、サキ。ですが、今回は驚きましたね。父さんの職場で薬の検査をして欲しい、なんてお願いをしてくるんですから」
「だ、だって! ナナシュが!」
「ナナシュさんが?」
「……泣いてるの、見ちゃったんだもん」
「……そうですか。サキは友だち想いですね。しかしそれならば、今すぐ店に入ればいい。ナナシュさんも、クランリーテさんも、喜ぶと思いますよ?」
「い、いいの! バレてないなら言わなくていいからね! こういうのは、わからないようにそっとやるからいいのよ!」
「ふ――――はっはっは! 恥ずかしがり屋だな、うちの娘は」
「頭撫でないで! もう……急に父親モードにならないでよね。それより早く、話してよ」
「わかったわかった」
「だから頭を……もう」
未分類魔法クラフト部
クラフト18「悔しさの思い出」
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