クラフト18 悔しさの思い出

119「響かない言葉」ナナシュ


 ――悔しい。



 夏休みの自由課題発表会の後、みんな部室に集まって……オイエン先生とヘステル先生が来て色々あったけど、ひとまず今日は解散になって。風の塔の前でみんなと別れたけど、私は真っ直ぐ帰らず、医療薬学科の教室に戻っていた。


 誰もいない、夕暮れ時の教室。私は自分の席に座って、窓の外を眺めていた。



 悔しい。



 夏休みの間に創った、猫アレルギーの薬。治療薬ではないけれど、症状を抑えることができて実用可能な薬だった。

 だけど発表会での評価は……保留。

 人体への影響を検査してから評価すると言っていたけれど――。


 本当の理由は、未分類魔法を使っているから。

 呼吸で取り込むマナに魔法を乗せる。医療魔法にとって、画期的な方法なのに。

 属性魔法ではないというだけの理由で、認めてもらえない。


 自分の住んでいる国が属性魔法の国だということはわかっているけど、ここまで保守的で融通が利かないなんて思わなかった。


 ……ううん。それは一部の人だけ。

 オイエン先生みたいな人もいるし、どちらでもいい派の人が多いことも聞いた。


 わかってる。わかっているけど……。



『……あっ、あの! 私たちはこの薬を、アレルギーで苦しんでいる人のもとへ届けたい、その一心で創りました! ですから……その』

『あぁ、うん。それはわかるよ。わかるんだが……そうだなぁ』



 なにより悔しいのは、私の言葉がまったく届かなかったこと。

 響かせることができなかったこと。


「……そっか、私は……」


 こんなにも悔しいのは。

 涙が出るほど悔しいのは。


 それだけその信念にプライドと自信を持っていたからなんだ。


「う……ぅっ!」


 とてつもない涙の奔流に襲われて、私は机に突っ伏して嗚咽を堪える。


 猫アレルギーの薬は、症状を抑えることしかできなかった。

 でも研究を進めれば治療薬だってできるかもしれない。

 他の病気にだって、転用できるかもしれない。


 ……マナ欠乏症の薬に繋がるかもしれないのに!


 私はクラリーに、マナ欠乏症の治療薬を創るって約束した。


 二年前。

 あの日も私は、とっても悔しくって――……

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