117「打ち上げ、空へ」クランリーテ


 魔法学校の屋上に。大きな筒が造られていた。

 高さは私たちの身長の倍くらい。直径も3、4人分くらいある。

 下の方は四方向からがっちり土台で固めてあり、サキ、チルト、ナナシュ、フリル先輩が魔法を維持してくれていた。


「なんか、すごいのが出来上がったけど……」


 この大きな筒で、マナ計測器を空へと打ち上げる。

 考え方は、以前街中で使った『ボイスキャノン』と同じ。

 風属性魔法を圧縮、解放した時の爆発的威力を、周囲に広がらないよう上に向ける。


「……ここまでしないと、筒が壊れるかもしれないんだよね」

「そうよ。さっきのとんでもない暴風、見たでしょ? 土台をしっかり造らないと」


 土台と筒はサキとフリル先輩の指示で造ってもらった。

 筒の直径は大きいけど、穴は計測器が入る程度の大きさしかない。外側がとんでもなく分厚い。こうしないと筒が壊れてしまうそうだ。


 ……確かにヒミナ先輩の魔法はとんでもない威力だった。

 本番は、さっき以上の魔法になる。


(ヒミナ先輩はたった一回で、あれだけの魔法を――)



「クラリーちゃん! 次はわたしたちの出番だよ!」

「アイリン……。うん。そうだね」

「二人とも頼んだよ。七人の共同作業、最後の仕上げだ。ワタシには成功のビジョンが見えているよ!」

「……わかってはいましたけど、先輩、自信家ですよね」

「クランリーテ。成功のイメージができなければ、なにも上手くはいかない! 魔法と一緒さ!」

「!! そう、ですね!」


 私たち三人は、筒に手を当てて中で魔法を発動させる。


「古より吹き続ける魔の風よ、ここに集い、我が願いに力を貸したまえ!」


 ……ヒミナ先輩の詠唱!

 やっぱりさっきよりも強い魔法になる。


「ふおぉぉ……大丈夫かな?」

「サキたちの造った筒を信じよう、アイリン。私たちは自分の魔法に集中しなきゃ」

「うん……!」


 私が使う魔法もさっきと同じ。圧縮の魔法。


「……古より吹き続ける魔の風……」


 呟いて、取り込んだマナを魔法に変えていく。

 風が凝縮されていく。今にも暴れ出しそうな魔法を抑え込み、より強い力で圧縮していく。さっき見せたのよりも、もっと、もっと……強く!


「ふふ。いいね……。さあ、今こそ撃ち出せ、希望の星! バーストキャノン!!」



 ――ズドォォォン!!



「うわっ……!」


 ヒミナ先輩の魔法が爆発し、分厚い筒越しに衝撃がビリビリと伝わってくる。

 瞬間は見れなかったけど、マナ計測器はちゃんと打ち上がったみたいだ。見上げるとすでに小さな点のようになっている。このまま空まで届いてもおかしくなさそうだけど……。


「やはりワタシだけではダメだね。もうすぐ落ちる」

「じゃあ、タイミングバッチリってことですね」

「わたしたちの魔法の出番だ!」


 パンッ!


 上空から微かに、甲高い音が聞こえ――。

 計測器の下に取り付けられた、


 中に仕込んであった私の圧縮風魔法が解放され、計測器がさらに空へと打ち上げられる。


「上手くいったようだ。風魔法を二重にして撃ち出す作戦」

「はい!」

「一発勝負だったけどタイミングピッタリ!」

……か。なるほど、便利な魔法だ」


 あそこまで遠くなると、圧縮の魔法を維持することができなくなる。通常ならその時点で風が解放され、最初の打ち上げの最高点に達する前に二度目の打ち上げが発生してしまう。それでは意味がない。

 解放のタイミングをコントロールしていたのは、アイリンの未分類魔法。

 以前、ボイスボックスを繋げて使っていた、連動魔法の応用。

 あの時は間を通ると発動する魔法だったけど、今回は決まった時間で発動するようにした。

 私の魔法を連動魔法で包み込み、時間が来ると解放されるようにする。

 こうすることで、遠く離れても圧縮を維持することができた。


(手間はかかるけど、魔法の有効範囲を伸ばすことができるってことなんだよね……。やっぱりアイリンの未分類魔法はすごいな)


 今度この魔法も教わろうと心に誓った。


「クラフト部のみんな。フリルも。みんなよくやってくれた。おかげで打ち上げは大成功だよ」

「あっ、筒にヒビが入ってるわ。あれだけ頑丈にしたのに」

「でもそれボクの側だけだねー。ちぇ、属性魔法はまだまだ苦手だよー」

「はぅ、私の方もちょっと欠けてます……。サキちゃんとフリル先輩のところは無事ですね」

「えっ!? あ……本当ね。とにかく打ち上げられたんだからいいのよ! チルもナナシュも気にすることないわ」


 サキの言う通り。筒はボロボロになっているけど、打ち上げられたんだから問題ない。


「あのー……さ。確かに打ち上げに関しては成功したんだし、筒がどうなってても問題ないよ。でも、ほら」


 フリル先輩が、すっと上を指す。


「計測器、まだ落ちてこないんだよね」

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