115「マナ計測器」クランリーテ


「マナの量を測る……??」


 ヒミナ先輩とフリル先輩が創った、この緑色の箱。

 周囲のマナの量を測る道具だと言うけど……私たちはピンと来なかった。


「ね、クラリーちゃん。マナの量って場所によって違うの?」

「うん、目には見えないけど、その密度が違うよ。でも」

「世界にはマナが満ち溢れているわ。違うと言っても大した差じゃない」

「魔法を使う分にはどこでも問題ないんですよね」

「ぶっちゃけ計測する意味ないん――むぐっ」

「こら、チルっ……!」


 慌ててサキがチルトの口を塞ぐけど、遅かった。先輩たちにも聞こえてしまったはず。


「はっはっは! もちろん、その通りだよ。世界には無限と言っていいほどのマナがある。密度の差など関係無い。魔法が使えればいいのだからね。君たちがそう考えるのは普通だから、気にすることはないよ」

「は、はぁ……」


 私たちの反応を楽しむように、ヒミナ先輩が笑う。

 つまり、そんなことはわかっているけど、それでも創ったということだ。


「あの、じゃあいったい、なんのために……?」

「先ほど――ワタシ自身も言ったことだが――魔法が使えるならマナの量など測る必要は無い。そう考えるのは普通だ。けれど、普通じゃない場所はどうかな?」

「普通じゃない場所……?」

「――!! そっかー! 普通じゃない場所! 遺跡だ!」

「あっ……」


 なにがあるかわからない古代遺跡。もしかしたら魔法が使えない、マナが無い部屋があるかもしれない。

 それだけじゃない。未開の大陸だって、ちゃんとマナがある保証はないのだ。

 マナを計測する道具は、そういう新しい場所で役に立つかもしれない。


「さすがだね。探検家を目指しているだけあって、いい閃きをしているよ。チルト」

「ふっふっふ。それほどでもー」

「でもね、ワタシが調べたかったのは、そこじゃないんだ」

「未開の大陸、ですか?」

「うん、それもいいね。でももっと身近な場所さ」


 古代遺跡でも、未開の大陸でもない。身近な場所。どこだろう……?

 私たちが首を傾げていると、ヒミナ先輩は満足そうに何度も頷いて、


「あるだろう? ワタシたちの側にあり、しかしもっとも遠い場所。見えているのに届かない。誰も踏み入れたことのない領域。――ほら」


 ヒミナ先輩は、すっと指を一本立てる。

 1……? いや、これは上を指して――。


「――! 空、ですか!?」

「正解だよクランリーテ。人は魔法があれば空も飛べる。だけど、その高さには限界がある。いくらマナがあっても、使用者の体力が保たないんだ。空を飛ぶほどの魔法はとても大きな魔法だからね」


 私はチラリとチルトを見る。チルトは小さく首を振った。彼女の魔剣でも、高さに限界があるようだ。


「この空の上はどうなっているのか。そこにもマナはちゃんとあるのか。ワタシはそれを知りたくて、このマナ計測器を創ったのさ」

「な、なるほど……」


 この人……考えることのスケールが違う。

 ちょっと変わった先輩だけど、こんな人がこの学校にいたんだ。


「ワタシたちの研究、理解してもらえたようだね。よかったよ、このままこの研究が忘れ去られてしまうんじゃないかと不安だったんだ」

「いやいや、それはない……ていうかヒミナ、そんなこと考えてたの? ウソでしょ?」

「本当だとも。それにまだ――。ああ! 今とても素晴らしいことを思い付いたよ! 君たち、是非この研究に協力してくれないか?」

「……え?」

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