114「二年生の研究」クランリーテ
「実は昨日、ヘステル先生に呼び出されていたのを見ていたんだよ。だからここで待っていれば会えると思ってね」
「いやいや……ほんとごめんね。待ち伏せみたいなことをして」
「い、いえ……」
話を聞こうと思っていた相手が、向こうから来てくれるなんて。こっちも手間が省けたけれど、まだちょっと動揺が抜けていなかった。
ヒミナ・ハインテイル先輩。ピンクのショートヘアで、鋭い目つきに自信たっぷりの表情がよく似合っている。身長は高くなく、ナナシュよりは高いけど私よりは低い。だけど背の低さを感じさせない、プレッシャーというか雰囲気がある。
もう一人、フリル・ホーステン先輩。髪はグリーンのセミロング。身長はサキと同じくらいで、私よりも少しだけ高そう。私たちを気遣ってくれて、申し訳なさそうな顔をしている。優しそうな人だ。
この二人が、自由課題発表会で最高評価を受けた先輩たち……。
私たちがたじろいでいると、サキが少し前に出て尋ねる。
「ヒミナ先輩。それで、あたしたちに何か用があるんでしょうか?」
「そうそう、君たちと是非話がしたいと思っていたんだよ。未分類魔法クラフト部、サキ・ソウエンカ」
「――!!」
「ワタシは君たちのこと、なんでも知っているよ。アイリン・アスフィール。クランリーテ・カルテルト。チルト・ツリーグリース。ナナシュ・ネリンフェーネ」
私たちの名前を知っている……。もちろんそれくらい調べようと思えば調べられるけど、なんだかドキッとしてしまう。
「いやいやいや、なんでもじゃないでしょ。自由課題発表会の資料に、全員の名前が書いてあっただけだから。調べるまでもなかったでしょ」
「ふっ。そうとも言うね」
……なんだろうこの人たち。
ちょっと変わった先輩たちだ。本当に最高評価をもらう研究をしたのかな。
なんてことを考えていると、横にいたアイリンがバッと手を真っすぐ上げる。
「あの! ヒミナ先輩たちって自由課題で――」
「自由課題! そう、ワタシたちは自由課題のことで話がしたかったんだよ!」
「――ふおお?」
先輩たちも自由課題のことを……?
「……ま、あたしたちに用事って、それしかないわよね」
「だよねー。ナナシュちゃん説明がんばー」
「はぅ! 私!? ……うぅ」
「研究内容は把握しているよ。君たちの研究は素晴らしかった。評価保留などもったいない。ワタシは直ちに薬を量産する方法を用意すべきだと思うね」
「それに関してはわたしも同意。……まぁこの学校の体質的にしょうがないけど」
「は、はぁ……ありがとうございます」
「ワタシたちは未分類魔法の否定派ではないよ。だから安心して欲しい」
「むしろ容認派かな」
「あれ……否定派とか容認派って、先生や研究者の人たちだけじゃないんですか?」
少なくとも私はそう思っていた。一年生の間でそんな話は出たことがなかったから。
「あー、一年生だもんね。わたしたちもそう思ってたよ」
「一年生の間はあまり関係ないが、学年が上がってくると自分のスタンスを明確にしなければならなくなる。ワタシは好き勝手にやっているけどね」
「はいはい。あのね、進路次第では四年生になると研究者に弟子入りっていうか、研究員になることができるんだよ。で、当然入りたい先生が否定派なのかどうかが大事になってくるの」
「なるほど……進路次第で……」
「もちろん! ワタシのように研究室に入るつもりがない生徒もいる」
「ヒミナのことは置いといて。すごい研究を発表すれば、いきなり自分の研究室をもらえて研究者になれるんだよ」
「そ、そんなことがあるんですか!?」
「滅多にないみたいだけどね」
「ワタシならなにも問題ない」
「いやいやいや……ヒミナは確かにすごいけど」
自信たっぷりな様子のヒミナ先輩。……フリル先輩もはっきりとは否定しないんだ。
「あ、あの~……そろそろ、先輩たちの自由研究の話が聞きたいな~……なんて」
アイリンが遠慮がちに、でも好奇心を隠せない様子で尋ねる。
そうだった、そっちが本題だった。
「あぁ! ワタシとしたことが。話が逸れてしまったね。今回の発表会で最高評価を得たのはワタシたちだが、でもね。話題はすべて君たち未分類魔法クラフト部の発表に持って行かれてしまった。おかげでワタシたちの研究はまったく噂に上がらない」
「まー、影に隠れちゃった感じなんだよね。わたしは別にいいんだけど……」
「良くないさ、フリル。それでね、せめて君たちに、ワタシたちの研究を見てもらおうと思ってね。あの状況じゃ、その後の研究など見る余裕がなかっただろう?」
「うっ……はい。実はそうなんです」
「思った通りだね。さあ、どうかな。見てみたいかい?」
「はい! 是非見たいです!」
「いやいや、ヒミナが見てもらいたいんだよね? さっきそう言ってたじゃない」
「どちらでも同じことさ。実はこの樹の後ろに準備してあってね」
先輩たちの立つすぐ側、樹の後ろから緑色の箱が出てきた。一人で抱えられるほどではあるけど結構大きい。こちらを向いている面に半透明の鉱石が六個横並びに取り付けられていた。
「なんですか!? この箱!」
「落ち着きたまえ、アイリン。これこそがワタシたちの自由課題、研究成果さ」
「魔法道具……ですか?」
「いやいや、少し違うかな~。まぁ魔法を使った道具ではあるんだけどね」
「ふっふっふ。気になるだろう? この箱はね」
ヒミナ先輩が腕を組み、顎を上げて私たちを見下ろすような(背が低いから見下ろせてないけど)ポーズを取る。
「周囲のマナの量を測る道具なのさ」
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