111「アイリンと、私たちの意志」クランリーテ


 翌日、放課後。

 アイリン……と、私たちは、火の塔の前に立っていた。


「じゃ、じゃあ行ってくるね、みんな」

「なに言ってるの、アイリン。私たちもついていくって言ったでしょ?」

「そうよ。……あんな噂聞いて、一人で行かせられるわけないじゃない」

「いざとなったら逃げよう! ボク、ちゃんと脱出ルート考えてきたからね!」

「み、みんな~! ありがとう!」


 アイリンが私たちに抱きついてくる。やっぱり恐かったのか、ちょっと身体が震えている。


「アイリンちゃん、大丈夫だよ。きっと。……悪い先生ではないと思うから」


 実はナナシュ、昨日帰る前にもう一度ファイアータワーを使ったら……見事、肩幅と同じ直径の円柱を出すことができた。


「ファイアータワーの中を全部炎にする必要は無いって気付いたの。コントロールでカバーする。炎の筒にすれば、私も合格できたんです」


 ヘステル先生はそれをナナシュに教えようとしていたのだ。


 ……もっとも、それは相手がナナシュだったから。教師としての仕事をしたのだろう。

 否定派としてのヘステル先生が、未分類魔法を創ったアイリンをどう対処するのか想像が付かなかった。


 最悪、未分類魔法クラフト部を解散させられるかもしれない。

 だとしたら全員で行くべきだ。



「……やっぱり、全員で来たのね」

「ヘステル先生……!」


 入口前で話していると、ヘステル先生が姿を現した。


「仕方ないわね。ついてきなさい」


 全員で行っていいってことかな? 私たちは頷き合い、ヘステル先生の後に続く。

 階段を五階分登り――ちょっと息を切らせ(先生とチルト以外)――、一つの部屋の前に辿り着く。

 そこで、ヘステル先生が振り返った。


「アイリン・アスフィールさん」

「は、はい!」

「確認します。あなたはこれからも、未分類魔法の研究を行うつもりですか?」

「……! はい!」

「昨日、私にあれだけのことを言われたのに?」



『属性魔法も碌に使えないのに、必要の無い魔法を研究している場合?』

『待ってくださいヘステル先生! 必要ないって、そんな!』

『黙りなさい、クランリーテさん。ここは属性魔法を学ぶ場です。それを疎かにして未分類魔法の研究など、言語道断よ』



「それでもです! 確かにわたしは……属性魔法が苦手です。でも、未分類魔法の研究を辞める理由にはなりません!」

「何故です。どうしてそこまで未分類魔法に拘るのかしら?」

「未分類魔法は必要の無い魔法なんかじゃないからです! 本当はもっと色んなことができる。可能性が眠っているんです!」


 ヘステル先生はアイリンの言葉にはなにも応えず、今度は私たちの方を見る。


「……クランリーテさん、サキさん。あなたたちはどうなのです? 成績優秀なあなたたちが未分類魔法クラフト部にいるのは何故?」

「私は、アイリンの言う可能性を信じているからです。きっと、私の目的も果たせると思うから」

「あたしはアイリンの魔法に魅せられたからです。彼女の魔法が完成するのを見届けるために手伝うって、決めたんです」

「クラリーちゃん……サキちゃん……!」


「チルトさん、あなたは冒険科です。未分類魔法は関係ないでしょう。医療薬学科のナナシュさんもです」

「そんなことないですよー。アイちゃんの魔法は、ぜーったい! 遺跡探索に使えます!」

「先生、お忘れですか? 猫アレルギーの薬は、アイリンちゃんの未分類魔法が無くては作れませんでした。無関係ではありません」

「チルちゃん、ナナシュちゃん~!!」


「……ヘステル先生。私たちは、自分たちの意志で……そしてアイリンを信じて、未分類魔法クラフト部に入りました。もし、解散させようとしているのなら……」

「解散? ……なるほど。もし強制的にクラフト部を廃部にしたら、どうしますか? アイリンさん、答えなさい」

「えっ!? は、廃部になったら、寂しいです。でも……わたしたちは、それでも未分類魔法の研究を辞めません!!」


 アイリンの言葉にみんなが頷いて、ヘステル先生の目を見る。

 先生は腕を組み、私たちの顔を順々に眺めて――。


「そう。わかったわ。では、研究室に入りなさい」


 ヘステル先生は背を向けて、ガチャリと鍵を回して扉を開ける。


 ぎゅっ。


 アイリンが私の手を取る。もう、震えてない。

 恐くない。私たち五人が一緒なら、なにをされたって大丈夫だから。


 アイリンの手を握り返し、一緒に研究室の中へ――



「――えっ? この部屋は――」

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