第三部・二学期編・1

クラフト16 魔法学校の人たち・前編

107「未分類魔法の発表」クランリーテ


「――マナの膜を張ることで、身体に入り込んだ猫のフケなどを包み込み、無害な物と思わせることが可能です。これによりアレルギー反応が出なくなります」


 ターヤ中央区高等魔法学校、演舞場。

 夏休みの自由課題発表会。

 私たちはステージに立ち、猫アレルギーの薬を発表した。

 もっとも、薬の説明は全部ナナシュがしてくれて、私たちは後ろに立っているだけ。

 ナナシュ、直前まですごく緊張していて心配だったけど、いざ発表が始まると落ち着いて話し始めてホッとした。店番で薬の説明をしてきた経験が、今のナナシュを支えているのかもしれない。


「質問。その薬、どれくらい保つのですか?」

「朝飲めば夜まで効果が続きます。副作用等もありません」

「ふむ。本当に効くのかね?」

「はい。実際にアレルギーのある人に飲んでもらっています。その子……その人は、猫を抱えても目のかゆみやクシャミなど、アレルギーの症状が一切出ませんでした」

「ほほう……」


 演舞場内がざわめきだし、色んな声が聞こえてくる。


 本当ならこれはすごい薬だぞ。他のことにも転用ができるのではないか。うちの娘に飲ませたい、猫アレルギーなんだ。というか私が飲みたい。これを学生が創り出したのか……。医学界に衝撃が走るぞ。


 ……などなど。

 私たちは発表が上手くいったことを確信し、お互い頷き合っていた。


「では、質問がなければこれで――」

「一つ、気になるところがあるんだが」

「――あっ、はい。なんでしょうか?」

「この……『呼吸で取り込むマナに魔法を乗せる』というのだが、これは薬草などの効果ではなく、魔法なのだね?」

「それは――」

「そうです! その魔法はわたしが創りました!」


 ナナシュに代わり、アイリンが前に出て元気よく返事をする。

 薬の質問にはナナシュが、魔法部分にはアイリンが返答することになっている。

 ……私は少しだけ、緊張する。


「ほほう。この魔法はいったい、何属性の魔法なのかね?」

「属性? いえ、未分類魔法です!」


 アイリンがそう答えた瞬間、演舞場がしんとなる。

 やがて……。


「未分類魔法なのか……ううむ」

「確かにすごい魔法だが、これは」

「む、むぅ。困りましたな」


 あちこちから、そんな声が聞こえ始める。この反応は……。


「……あっ、あの! 私たちはこの薬を、アレルギーで苦しんでいる人のもとへ届けたい、その一心で創りました! ですから……その」

「あぁ、うん。それはわかるよ。わかるんだが……そうだなぁ」


 課題に評価を付ける先生までもが、微妙な、曖昧な返事をする。

 それを見て、ナナシュがゆっくりと肩を落としていく。

 アイリンも演舞場の空気を感じ取ったのか、青い顔をしている。

 私も、二人の背中を見ているのが辛い……。


「……ねぇ、サキ。これって……」

「ちょっと、考えが甘かったのかもしれないわね」


 ターヤ王国は、属性魔法の国。

 ここで未分類魔法の発表をすると、どういう反応をされるのか。

 私たちは今日、思い知らされたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る