105「また会う日まで」クランリーテ
翌日、夏休み最後の日。
私たちはスツへ帰るユミリアを見送りに、城下町南門のバスの駅に集まっていた。
「ユミリア。スツに帰っても、元気で」
「ユミリアちゃん。部活のこと、応援していますね」
「クラリーさん、ナナシュさん。ありがとうございます。お二人も、どうかお元気で」
「私はまた、スツに行くこともあると思うから。その時はよろしくね」
「ボクも一緒に行くよ!」
「え、チル……? 毎回ついて来るつもりなの?」
「ふふ。はい、お待ちしております。サキさん、チルトさん」
「ユミリアちゃん!」
それぞれ挨拶をして、最後にアイリンがユミリアの手をぎゅっと握る。
「アイリンさん……これは」
どうやらなにかを手渡したようだ。手の中からそっと取り出すと、それは――。
「テレフォリングだよ!」
「私がいただいて良いのですか?」
「もちろん! ユミリアちゃんにもらって欲しい!」
「アイリン……。ユミリアにあげることにしたんだね」
通話魔法を使うためのイヤリング。これがあれば、遠く離れていてもユミリアと話すことができる。
……でも、基本的に城下町の話題、学校でのことが中心になってくる。ユミリアが疎外感を感じなければいいんだけど。
「使い方を教えるね! まずね、ここからスツって遠いから、遠距離用にしておかないとダメなんだ。だから宝石の、この青い方を上にしてね」
……ん?
「こうですか? あ、宝石がくるっと、上下に回るのですね」
「赤い方を上にすると近距離用になっちゃうから気を付けてね!」
「わかりました」
……んん??
「あとね……急ごしらえだったから、遠距離用のテストができてないんだ。たぶん大丈夫だと思うんだけどね。もしかしたら声のやり取りに、少しだけ遅れが出るかも」
「そうなのですね……」
アイリン?
嬉しそうに使い方の説明をしているアイリンの背中を、私たち四人はじーっと見つめる。
私たちにもきちんと説明してもらいたいんだけど?
「ふふ。みなさんと同じ物を身に付けられる。それだけでも、私は嬉しいです」
……でもユミリアが嬉しそうだし。
アイリンを問い詰めるのは後にしよう。
「みなさん。今日は朝早くに見送り来て頂いて、ありがとうございました」
「ユミリア。そんなの当然だよ。だって私たちは……友だちなんだから」
「クラリーちゃんの言う通り! 友だちだからね!」
「そうね。友だちのお見送りをするのは当然よね」
「だねー。ユミちゃん。ボクたちは友だちなんだよ」
「離れていても、私たちは友だちですよ。ユミリアちゃん」
私たちがそれぞれ言葉をかけると、ユミリアは――。
「みなさん……!」
「わっ……」
私たちに、抱きついてきた。
「本当に、本当に……今年の夏は楽しかったです! みなさんと遊びに出かけるのが、楽しみで仕方がありませんでした! 友だちと言っていただけて、嬉しいんです!」
「ユミリア……」
いつも落ち着いているユミリアが、感情をむき出しにして涙を流している。
楽しかった。嬉しい。そして……離れるのが寂しい。
そんな気持ちが伝わってきて、私たちは抱きしめ合う。
「……ユミリア、また合おうね」
「はいっ……はいっ! 必ず、また合いましょう。約束です……!」
私たちはバスが出発する直前までそうしていた。
ユミリアは涙が止まらなくて大変そうだったけど、お父さんとお母さんと一緒にバスに乗り込んでいった。
バスが出発し、見えなくなるまで見送って、そして――。
「さて。……アイリン?」
「うん? なに……うわ、クラリーちゃん顔が……ふわあああ! みんな怖い!」
「ちょっとアイリン? なによさっきのテレフォリング」
「遠距離とか近距離とか、ボクたちなにも知らないよー?」
「詳しく聞きたいですね。アイリンちゃん」
「ひぃ、ナナシュちゃんまで怒ってる!?」
「詳しく話を聞かせてもらうからね。アイリン」
「う、うぅぅ、ごめんなさいぃぃ!!」
……説明を聞くまで怒った顔をしていようと思ったのに。
頭を抱えるアイリンを見て、私はつい笑い出してしまった。
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