102「知ってしまったから」クランリーテ
夏休みの終わる……二日前。
あれからユミリアに会うことはできなかったけれど、なんと私たち五人はスツ劇団の最終公演にゲストとして招待された。
これが彼女と話をする最後のチャンスかもしれない。
私たちは早めに劇場に集まって、始まる前にユミリアを訪ねた。
「みなさん……! 今日は来てくださって、ありがとうございます」
「いやいや、こちらこそ。招待してくれてありがとうユミリア」
「最後にもう一度、みなさんに公演を見ていただきたかったのです。団長さんにその話をしたら、すぐに手配をしてもらえました。本当に……感謝しています」
「ふぉぉ、そうだったんだ! ……あ、えっと、それでね? ユミリアちゃん。こないだの話……そのー、どうしたかなーって……」
アイリンが歯切れの悪い言い方で尋ねると、ユミリアは察したようで、そっと目を逸らしてしまう。
「……まだ返事をしていないのです。この公演が終わったら……答えを出さないといけないのですが」
「ユミリアは……学校辞めたくないと思ってるんだよね?」
「それは…………」
「でもスツの学校に友だちはいないのよね」
「それでも辞めたくないってことはー」
「他になにか未練があるということですね」
「ユミリアちゃん! わたしたちに話してよ!」
「……私は……」
私たち五人に詰め寄られ、ユミリアは困った顔になり……でもすぐに、ふっと柔らかい表情を見せる。
「……みなさんには敵いませんね」
「ユミリアちゃん……!」
「学校を辞めたくないと思っている理由。私の未練は……」
ユミリアは私たちの顔を順々に眺めてから、続きを口にする。
「みなさんです」
「へ? わ、わたしたち……?」
私たちが未練? 学校、違うのに?
思わず顔を見合わせて、首を傾げてしまう。
「えーと、ユミリア? どういうこと?」
「私はみなさんと出会い、一緒に遊んで。知ってしまったのです。友だちと過ごす日々の楽しさと、大切さを。共になにかを成し遂げることの素晴らしさを」
「あ……」
あぁ……私には、ユミリアがなにを言いたいのかわかった。
私もナナシュと出会うまで、友だちらしい友だちがいなかった。
孤立していたわけではないけれど、クラスメイトと距離があったのは感じていた。
だけど、今は違う。そして知ってしまった。
「私はみなさんが羨ましいのです。一緒に過ごせる相手がいること。気持ちを共有できる理解者がいること。私は……友だちを作りたい」
ユミリアが学校を辞めたくないのは、私たちと出会ったから。
友だちを。知ってしまったから。
「…………」
痛いほど気持ちがわかるから。言葉が出てこなかった。
友だちも、劇団も。ユミリアにとって、同じくらい大切なものになっている。
どちらを取るか。どうした方がいいかなんて、私たちが軽々しく言っていいことじゃない。
せっかく、ユミリアが話してくれたのに、私は……。
「ね、ユミリアちゃん。もしかして、なにかしたいことがあるの?」
「え……?」
そんな中、アイリンがユミリアに問いかける。
でもなにを聞きたいのか、すぐにはわからなかった。
アイリンが続ける。
「わたしたちはね、未分類魔法を作る! って目標があるよ。だからユミリアちゃんも、友だちと一緒になにかしたいのかなって思って。……あれ、違った?」
アイリンのその言葉に、ユミリアがハッとした顔になる。
そして……。
「友だちと……一緒に。なにかを……。そう、ですね。私は――」
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