101「悩みを聞きたくて」クランリーテ
「ユミリアちゃぁぁん! 学校辞めて劇団に入るって本当?」
「……! 聞いてしまいましたか……」
私たちは劇場内でユミリアの姿を見付けると、早速さっき聞いた話のことを問い詰める。
「まだ決まった話ではありません。ただ、今回の公演でありがたいことに私の歌の評判がとても良いみたいで。団長さんに、夏休みだけじゃなく本格的に巡業について来ないか、と声をかけて頂いたのです」
「ふおおぉぉ……」
「ユミリア、それって……すごいことだよね?」
「はい。本来なら厳しい入団試験がありますから。……私の歌を、みんなが認めてくれています。すぐにでもお受けするべきなのですが、私は迷っています」
「学校を辞めないといけないのよね」
「あぁー、学校の友だちと会えなくなっちゃうのはねー」
「はぅ、それは辛いですね……」
学校を辞めて巡業についていけば、当然地元の友だちと会う機会も減ってしまう。
となると、すぐには答えが出せないだろう。
私だったらどうだろう。
ちらりとアイリンたちを見る。
……ものすごく、悩むかな。
「そっかぁ。せめてテレフォリングがあれば寂しくないのかな」
「テレ……リング? なんでしょうか、それは」
「なにって、これのこと……………………………………あ」
アイリンが自分の耳のイヤリングをつまんだまま固まる。
「久々に出たわね……アイリンのあれ」
「だね……。ちょっと油断してたよ」
「はぅ、私、どうしてアイリンちゃんが固まったのか、すぐにはわかりませんでした……」
「あーあ。どうするのー、アイちゃん」
「うぅ、うぅぅぅぅぅ……」
テレフォリングと通話魔法は未完成。クラフト部の秘密になっている。
当然、ユミリアにも隠していたわけだけど……でもきっとアイリンは、
「だめだー! ユミリアちゃんに隠し事なんてできないよう」
「言うと思ったよ。……ユミリア。これから話すことは、秘密にしておいて欲しいんだけど」
「は、はい。なんでしょう……?」
私たちは通話魔法のことを簡単に説明する。実際にテレフォリングを貸して試すこともできたので、話は早かった。
「……未分類魔法クラフト部というのは、すごいのですね」
「えへへ~それほどでもぉ。あっ! でも未完成だから! 何度も言うけど絶対に秘密にしておいてね!」
「わかりました。約束します」
……よかった。ユミリアなら口は固そうだし、きっと大丈夫だろう。
「このような魔法があれば……巡業をしていても、友だちと話すことができますね」
「でしょ~? やっぱり早く完成させなきゃ!」
「応援しています。……ですが、私の悩みは違うのです」
「え? 違うって、どういうこと?」
友だちと離れてしまう。でも、通話魔法があれば話ができる。そのことはわかってくれたはずだけど……。
「先日、地元の友だちは少ないとお話ししました。……でも本当は、友だちはいないのです。歌と魔法の練習ばかりで、クラスのみなさんと仲良くする時間がありませんでした」
「そう、なんだ……」
「心配しないでください。歌も魔法も好きなので、練習は苦ではありません。劇団のみなさんも優しい方ばかりです。私の環境は、むしろ恵まれているのでしょう」
それは、今日の見学でよく伝わってきた。みんなユミリアのことを想ってくれている。
ユミリアが歌が好きだというのだって、見ていればわかる。
ステージを楽しんでいることも。
でも……地元に友だちがいないというのは……。
「ですので、私は大丈夫です。……あ、そろそろ公演の時間が近いので、これで失礼します」
「うん、ユミリアちゃん。がんばってね!」
「はい。ありがとうございます」
ユミリアはお辞儀をして、劇場の奥へと歩いて行ってしまった。
「結局、なにを迷っているのか聞けてないわね」
「友だちいないなら、学校辞めるかどうかで悩まないよねー?」
「そうですよね……。他になにか理由があるのかな。ユミリアちゃん……」
「うぅ~、もっとちゃんと話が聞きたいよ~」
「……そうだね」
ユミリアがターヤ城下町にいるのは、あと数日。
それまでに、彼女の本当の悩みを聞くことができるのかな……。
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