100「スツ劇団とユミリアの歌」クランリーテ
劇場のステージで、スツ劇団の人たちが練習をしていた。
火属性魔法と水属性魔法の演技。相手に魔法が当たるギリギリを調整して、交互に出し合う。流れるように、よどみなく。踊りながら魔法を繰り出していく。お互いを信用しているから、魔法が当たってしまう不安はないんだ。
私たちが一学期の試験でやったのとは比べものにならない。素晴らしいパフォーマンスだった。
「やっぱりすごいね~……」
「ステージの袖から見ると、また違う印象があるわね」
「はぅ。何度見ても圧倒されてしまいます」
「踊るだけならボクもできるかな?」
「そう簡単じゃないと思うよ」
練習とはいえ、目を離せなくなる圧倒的な演技。本当に、本当に素晴らしい。
でも……私はいまいち集中できていなかった。
どうしてもさっきのユミリアが気になってしまって。
なにか、悩みがあるんだろうか。猫アレルギー以外で……。
「おっ? 君たち、ユミリアちゃんの友だちだね?」
練習を終えた劇団の男の人が二人。こっちへやって来た。
アイリンが一歩前に出て、みんなを代表して返事をする。
「はいっ! 見学していいって、ユミリアちゃんに――」
「ああ、聞いてる聞いてる。好きなだけ見て行ってくれよな」
「ユミリアちゃん、よく君たちの話をしてくれるんだよ」
「わたしたちのですか!?」
「プールに行った話とかな。いい友だちができたみたいで安心してたんだ。この劇団には歳の近いのがいないからなぁ」
そういえば前にユミリアがそんなようなことを言っていたっけ。
「えへへ……なんか照れちゃうね」
「ふふっ。そうだね。よかった、嬉しそうにしていてくれて……」
「あぁ、それで思い出したぜ。そっちの赤髪の子。ソウエンカさんとこの娘さんなんだって?」
「えっ……? あ、父のことご存じなんですか?」
そういえばサキのお父さんはスツ出身だった。劇団に知り合いがいてもおかしくない。
「どっちかって言うと、キミのおじいちゃんとな。あの人、昔先生だったんだぜ。オレの魔法の恩師だ」
「そうなんですか!? ……それは知りませんでした」
「ていうかサキー。いつのまにユミちゃんにお父さんのこと話したの?」
「別に……あの後すぐよ。スツに行く前ね。隠しっぱなしなのも気持ちが悪いじゃない。……もっとも、ユミリアは気付いていたみたいだけど」
「あれ? そうなんだー?」
「ソウエンカって名前、スツ独特のものだから。それで、もしかしたらって思ってたみたいね」
サキの名前、珍しいなとは思っていたけどスツ地方の名前だったんだ。
ユミリアのユキヅキも、きっと向こうの名前なんだろう。
「こっちに来てからのユミリアちゃん、すごく楽しそうだったよ。そのおかげかな、彼女の歌は評判がいいんだ」
「やっぱりそうなのですね。ユミリアちゃんの歌、本当に素晴らしくて……あっ、お二人の演技もすごいです。圧倒されてしまいました」
「はっはっは! いいんだぜ? 無理に褒めなくても」
「いえいえ! 本当の本当に、素晴らしいと思います!」
私たちは何度も頷く。二人の演技がすごいのは本当のことだ。
「そうかい? ありがとな」
「でもま、今回はホント、ユミリアちゃんの歌なんだよ。あの話も引き受けてくれるといいんだけど」
「あの話……ですか?」
「学校辞めて本格的に劇団に入って欲しいって、団長が――」
「おい、その話はまだすんなって」
「ハッ! そ、そっか。悪い悪い、今のは聞かなかったことにしてくれるかな。ははは……」
「ったく……。ま、ゆっくりしていってくれ。じゃあな」
そう言って二人は立ち去っていく。わたしたちは反射的に頭を下げるも……今聞いた話で、頭がいっぱいになっていた。
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