クラフト15 夏休み、友だちと
99「猫アレルギー」クランリーテ
「ユミリアちゃん! おまたせ。これが猫アレルギーの薬だよ!」
「えっ……ほ、本当にできたのですか?」
ターヤ城下町中央劇場、楽屋。朝一で訪ねた私たち五人は、ユミリアに完成した薬を渡した。
まさか本当に夏休みの間に創り上げるとは思っていなかったみたいだ。
でも、ユミリアがそう思うのも無理はない。だって……。
*
「ナナシュ。身体の中に膜を張るなんて本当にできるの?」
ナハマ旅行から帰ってきて、次の日。私とアイリンはナナシュの家に集まっていた。
猫アレルギー。主に猫の出すフケや細かい毛が原因とされている。身体に入ってしまった時に「これは異物だ、身体に害をなすものだ、くしゃみ鼻水涙などなど総動員して追い出すぞ」と過剰反応する。一度そう認識してしまうと少し入っただけでも反応するようになってしまう。それがアレルギー。
今回作ろうとしている薬は、身体にマナの膜を張り、そもそもの原因であるフケや細かい毛をマナで包んでしまおうというもの。
身体に入ってきたのはただのマナだと、勘違いをさせようというのだ。
これを聞いた時はすごい、さすがナナシュ、と思ったのだけれど……。
どうやってマナの膜を張るつもりなのか、私には見当もつかなかった。
「クラリーちゃん。わたしが創った、呼吸で取り込むマナに魔法を乗せる未分類魔法があったでしょ?」
「うん、通話魔法で使ってるやつだよね」
「実はね、薬を飲むだけでそれができるように、夏休みの間ナナシュちゃんと研究してたんだよ」
「え……そうだったんだ?」
「だけどぜんっぜん上手くいかなくってね~」
「治癒効果を高める魔法で試していたんです。でも、どうも回復魔法の方が力が強いみたいで、アイリンちゃんの魔法が潰れてしまうんです。かといって強さを調節して弱めると、想定の効果が出なくなってしまいます」
「……なるほど」
最近私も未分類魔法を教わったりしているけど……どうも、アイリンの魔法にはそういう傾向がある。回復魔法や属性魔法に打ち負けてしまうのだ。
「そこで思い付いたのが、薬草などの効果をマナに乗せる方法です」
「これがね、上手く行ったんだよ!」
「おぉ! じゃあ――」
「ただ……当然のことなのですが、アレルギーの治療に使える薬草は発見されていません」
「――あ。そっか、それがあるならとっくに薬ができてる」
そもそもアレルギーの治療薬が無いから創ろうって話だった。
「これでは意味がないと、ふりだしに戻ってしまったんですが……ナハマ空洞で見付けたリジェがヒントになりました。膜を張り、アレルギー物質を包み込んでしまえばいいと」
「なるほどね。じゃあそのマナの膜を張る薬草に目星が付いてるんだ?」
「はい。薬草ではなく、ネバーの実という木の実です」
そう言ってナナシュは、テーブルに木の実を置く。
茶色の、親指の爪くらいの大きさ。表面はツヤツヤしていて……。
「な、なんか触るとブヨブヨしてる! 大丈夫なの、これ」
「こういう木の実なんです。腐ったりしてるわけじゃないよ」
「そうなんだ……」
「もともとは胃薬などで使われる実です。胃の粘膜の代わりに、マナで保護してくれます」
「粘膜……そっか、その効果を呼吸のマナに乗せれば」
「身体の内側にマナの膜を張れるはずだよ!」
「あぁー……。やっと二人がやろうとしていることがわかったよ」
「うん! まずね、わたしがネバーの実を使って膜を張る魔法を作るでしょ」
「そして、私がブルードロップやリジェで薬にします」
「なるほど。……アイリン、その魔法私にも教えて。手伝うよ」
「わかった! まずね、このネバーの実を~」
「ふふっ。あとからサキちゃんとチルトちゃんも来ます。それまでに、試作をしてしまいましょう」
「おーっ!!」
そうして、薬を作り始めた私たち。
でも……最初にナナシュが思い付いた時からわかっていた。この薬は……。
*
「……という効果のある薬です」
ナナシュがユミリアに薬の説明を終える。ユミリアは薬をじっと見つめて、
「つまりこのお薬は……」
「はい。アレルギーの症状が出ないようにするための薬です。残念ながら、治療薬ではありません」
私たちの創ったこの薬では、アレルギーそのものを治すことはできない。
治療薬を創るという約束は守れなかった。
「でもね、ユミリアちゃん! 効果は間違いないはずだよ。へんな副作用もないよ! ここにいる全員が試しに――――あっ!」
アイリンが言い終える前に、ユミリアは手の中の薬を一つ、口の中に入れた。
「……みなさんが創ってくれたお薬です。心配していません」
「ユ、ユミリアちゃぁん!」
「わっ……」
アイリンがユミリアに抱きついた。なんかもう、アイリンのこれもお馴染みになってきた。
「ナナシュさん。薬の効果はすぐに出るのでしょうか?」
「えっと……5分くらいすれば、体内にマナの膜ができるはずです」
「わかりました。では、少ししたらヨリのいる部屋に参りましょう」
薬の効果が出るのを待って、私たちは移動する。
白猫のヨリはカゴに入っていて、ユミリアが近付いていくと……。
「……本当です。目のかゆみも、クシャミもでません」
ユミリアはそう呟くと、カゴの中からヨリを抱きかかえる。
「大丈夫そうです。あぁ、ヨリ……」
「よかったねーユミちゃん。なでなで」
「これでいつでも撫でられるわね」
「ふおお、やっぱり撫で心地いいなぁヨリちゃん!」
「本当ですね。ふわふわな毛が……気持ちいいです」
「うん、やばいよね、これ」
「ふふっ……。みなさんはすごいですね。本当に、こんな薬を創ってしまうなんて……。本当に、本当に……」
「……ユミリア?」
ユミリアはそう言うと、じっとヨリを見つめて……いや、どこか遠くを見るような目をしている。私の呼びかけも聞こえていない。
そのことにみんなも気付いたみたいで、顔を見合わせて首を傾げる。
と、ようやくユミリアはハッとして顔を上げた。
「あっ、す、すみません。ぼーっとしてしまって。みなさん、お薬……ありがとうございます。私はこれから演目の打ち合わせがありますが、みなさんどうぞ、練習を見学していってください。劇団のみなさんには話してありますから」
「おぉ、ラッキー!」
「練習風景が見られるのは、とても貴重ですよ……!」
「劇場内を自由に歩いていいってことよね?」
「はい、構いません」
「やったっ。ありがとうユミリアちゃん! みんな、行こう!」
ぞろぞろと、みんな部屋を出ていく。私は一番最後、扉の前で振り返ると……。
「…………」
ユミリアはヨリを抱き締めて、どこか思いつめたような顔をしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます