98「魔法騎士」クランリーテ
翌朝。私たちは城下町へ向かうバスに乗り込む。
バスの窓からナハマ山脈を見上げて……。
今回の旅行も、色んなことがあった。
天然氷のかき氷を食べて、もちもちのパンを食べて、山を登って。
山盛りのローストビーフを食べて(むちゃくちゃ美味しかった)、ナハマ空洞に入って。
そして、古代遺跡。秘密の部屋を発見した。
ナハマ空洞を出たあと、私は魔法騎士のミルレーンさんに呼ばれて二人で話をした。
「キミに、調査の協力をお願いしたい」
「えっ……。それは、ここの遺跡の調査ですか?」
「いや、ここの調査はひとまず魔法騎士と探検家で行う。調査に加わって欲しいというわけではない」
「そうですか……」
「だが、もし特殊な発見があった場合。キミにマナの動きを見てもらいたい」
「……! それは……はい。構いません」
「ありがとう、助かる。もちろん謝礼もする」
「あっ、それなら! 一つ……いえ、二つ、教えて欲しいことがあります」
「ふむ? 話せることなら」
「未開の大陸で見付かったという文字のことです。マナ、拒絶。その言葉の意味を、どのように解釈していますか?」
「ああ……。そういえば、その話はしていなかったな」
「はい。大捜索のきっかけになったとしか」
「……わかった。キミにならいいだろう」
「あ、ありがとうございます!」
「古い書物――三つの国ができるよりも前に書かれたものに、こんな一節がある。
『遙か昔、空気中のマナを身体に取り込むことなく、そのまま操作する方法が存在した』
肝心の方法、詳しいことは書かれていなかったがな」
「えっ……マナを取り込まずに魔法を使うってことですか? そんなこと――」
「そう、我々にはできない。そして、同様に再現不能な魔法として、魔剣の魔法がある」
「……! 魔剣の魔法は、マナを取り込まずに魔法にしている? だけど……魔剣自体は、マナを取り込んでいますよね」
「ああ。だがそれは、あくまで魔剣の能力を維持するためのエネルギーだろう。発動時にマナを込めるのも魔剣の中の魔法を発動させるためで、実際に特殊な効果を起こしているのは使用者の身体のマナだと考えられている」
「そ、そうなんですか……。では、発見された文字との関係は……?」
「あの文字が『マナを拒絶』だとしたらだ。それこそが、取り込まずに魔法を使う方法なのかもしれない。『マナを拒絶して、空気中でマナを操作する』。そう書かれているのではないか、というのが我々魔法騎士と探検家の考えだ」
「…………」
「これが一つめの質問の答えだ。もう一つはなんだ?」
「あ、はい。以前お会いした時に、チルトとアイリンのことをじっと見ていたのが、ちょっと気になって……」
「よく見ているな。……今の話の続きになるが、空気中のマナを操作する方法。もしそんな魔法が本当にあるのなら、それは属性魔法ではなく」
「未分類魔法……!!」
「そういうことだ。我々魔法騎士団第四隊は、現在魔剣と未分類魔法について調査をしている」
「だから、チルトとアイリンだったんですね……」
ミルレーンさんは私の質問に丁寧に答えてくれた。とても誠実な人だ。
『マナを拒絶して、空気中でマナを操作する』
それこそが、魔剣の魔法の手がかり……。
(本当に、そうなのかな)
未開の大陸で『マナ■拒絶』という文字が見付かったと聞いた時。
私は違うことを考えていた。
『マナを拒絶する』
これは……マナ欠乏症のことを書いているんじゃないか、と。
身体がマナを拒んでしまい、マナ欠乏症になる。
もしこの病気が、古代からあるのだとしたら……。
古代文明は、その治療法を見付けていたかもしれない。
未知の技術を持っていたと言われる古代文明。
治療法が確立していた可能性は高い。
魔剣と……そして未分類魔法に、治療の鍵があるのかもしれない。
だから、ナハマ空洞の大捜索は私にとって重要なことだった。
協力でもなんでもする。調査に連れて行って欲しかったくらいだ。
それになにより……。
「どうしました? クラリー。なんだか……嬉しそうな顔してる」
「えっ? あ、いや……」
隣りに座るナナシュに声をかけられて、ハッとなる。
バスはとっくに発車していて、窓からはナハマ山脈が見えなくなっていた。
「……ちょっとね。色々あったなって思って」
「うん。かき氷食べたり……あ」
ナナシュは辺りを見渡して、口に手を当てて小声で話す。
「そういえばサキちゃんとチルトちゃん、食べてないです……」
「あっ。しまった、忘れてた」
合流したらもう一度食べに行こうと話していたのに。すっかり忘れていた。
「……本人たちが気付くまで、黙っておこう」
「はう……。ごめんね、ふたりとも」
昨日はナハマ空洞で隠し部屋を見付けちゃったから。あれでかき氷のことが完全に飛んでた。
「私たち、すごい発見しちゃったね」
「そうだね。私も色々と成果がありました」
ナナシュはそっと、自分の鞄に手を当てる。中には例の特殊なリジェが入っている。
「……ミルレーンさんに報告できなかったね」
「そうなんです。今日はお会いできなかったから……。城下町に戻ったら、報告に行きましょう」
「うん、付き合うよ。……あのさ、ナナシュ」
「はい?」
ナナシュが小さく首を傾げて、言葉を待っている。
やっぱりこれは、ナナシュに最初に言わなきゃだよね。
「今回のことで、改めて思ったんだ。魔法騎士って……カッコイイよね。ミルレーンさんすごく冷静で、誠実だった」
「……クラリー?」
「だから……目指してみようかな。魔法騎士。大変だとは思うけどさ」
ナナシュが目を見開き、きらきらと輝かせ、頬を赤くして笑顔になる。
「なれるよ! クラリーなら絶対なれます。私が保証します」
「……ありがとう、ナナシュ」
自分のことのように喜んでくれるナナシュを見て。
私も嬉しくなる。
この子に出会えて、本当によかった。本当に、ありがとう。
魔法騎士。昔だったら絶対無理だと思ってた。でも今は――。
「大丈夫だよ。きっと、治せるから」
私は窓に映った自分に、そっと呟いた。
未分類魔法クラフト部
クラフト14「ナハマ山脈に行こう!」
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