97「ナナシュの大発見」クランリーテ


「やはり、これは普通のリジェではありませんね」


 夜、宿屋に戻った私たち。部屋割りは昨日と同じで、サキとチルトは別の部屋だ。

 ナナシュはお土産屋さんで買った小さな鉢にリジェを植え、テーブルに置いて観察していた。


「リジェの新しい派生種ってこと?」

「そうですね。あの場所で育ったから特殊な進化をしたのかもしれません。……もしくは逆に、古代のリジェという可能性もあります」

「ふおおお! それはすごいね! ナナシュちゃん、普通のとどう違うの?」

「まず葉の形が少し違います。それから茎の……ちょうど葉の付け根部分が、何故か赤くなっているんです。これはどの派生種にも見られない特徴です」

「あ、本当だ。赤くなってるね! ちょっと膨らんでる?」

「……ですね。なんでしょう、これ」


 言われてみれば……山で見たリジェはこんな赤い部分無かった。

 ……そうだ、試しにマナの動きを見てみよう。感覚を広げてみると――。


「……ん?」

「クラリー? どうかしましたか?」

「あっ、クラリーちゃんマナを見てるの?」

「よくわかったね……。うん、ちょっと見てみたんだけど、なんだろうこれ……」


 普通の植物は人間と同じように呼吸をし、マナを取り込みエネルギーにしている。

 でもこのリジェは……。


「周囲のマナを……なにかで、包み込んでる」

「包み込んで……?」

「なんて言えばいいのかな。少し変わった感じのマナを茎の赤いところから放出してるんだよ。それで周りのマナを包んでる」

「な、何故そんなことを?」

「わからないけど、そうやって包んだマナを葉っぱから取り込んでるね」

「う~ん? よくわからない動きをしてるね~」


 普通に、そのままマナを取り込めばいいだけなのに。

 どうしてわざわざ面倒なことをしているんだろう。


「時に植物は不可思議な生体を持っています。が……本当によくわかりませんね」

「だね~。とにかく珍しいリジェってことだね!」

「はい。これも大発見の一つです。自分で放出したマナでマナを包んで吸収する、なんて…………?」


 突然ナナシュが顔を上げて、ぼーっと宙を見つめる。そしてポツリと、


「マナを……包むのが……身体に取り込むための行動なら……」

「ナナシュちゃん? なにかわかったの?」

「このリジェがどうしてそんなことをしてるのかはわからないけど、でもこれは……これなら……。アイリンちゃん! 私、思い付いたことがあります!」

「ふわ!? な、なになに?」


 ナナシュがアイリンの肩を掴んで思いっきり顔を近付ける。

 珍しい……ナナシュがこんなに興奮しているところ、初めて見たかも。


「クラリーも聞いて。あのね――」


 ナナシュが思い付いたことを話してくれる。興奮していてもその説明はわかりやすくて――。


 すぐに、わかった。ナナシュが興奮した理由。だってそれは、


「あ……あぁぁぁ! それだぁナナシュちゃん!」

「これなら、少なくとも症状を抑えることはできるよ」

「すごいな。よく思い付いたね、ナナシュ」

「クラリーがマナの動きを見てくれたからだよ」

「違うよ! あの部屋でナナシュちゃんがこのリジェに気付いたからだよ!」

「だね。私もそう思う。これはナナシュの大発見だよ」

「はうっ……そうかな? えへへ……」


 恥ずかしそうに照れるナナシュ。私とアイリンは顔を見合わせて笑った。


「よーっし! 帰ったらすぐに作り始めなきゃ! ナナシュちゃん手伝ってね!」

「もちろん。これは私の課題でもあるんです」


 夏休みもあと少し。

 ようやく本格的に――猫アレルギーの薬創りに取りかかれそうだった。

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