95「空洞探索」クランリーテ


「どう? クラリーちゃん。なにか見付かった?」

「ううん、なにも。……ていうかよく考えたら、そう簡単に見付かるわけがないんだよ」


 私たち、未分類魔法クラフト部の五人は。

 ナハマ空洞を歩き回り、あるものを探していた。というのも……。




「実はこのナハマ空洞に、未発見の遺跡がある可能性があってな」

「未発見の遺跡……ですか?」

「ワドルクさん? 何故話したんです」

「いいだろ、これくらい。――まーあんまりハッキリした根拠はないんだがな。単に、もう一度ここを大捜索した方がいい、という話が出ている。今日はその下見だ」

「……どれ程人員を割くべきか決めるために、私と騎士長で一度見に来たというわけだ」

「へぇー! そうなんだー。でもどうして? 大捜索しようってなったのー?」

「それはな、魔剣の嬢ちゃん」

「騎士長。……チルト・ツリーグリース。それは話すことができない。すまない」

「……ちぇー」

「でもすごいよね! まだ見付かっていない部屋があるかも! なんて。ドキドキするよ~」

「お? アイちゃん探検家の素質あるね! じゃあみんなで探してみよっか!」

「いいね~! そうしよう!」

「……え? アイリン?」

「本気なの? チル」

「興味はあるけど……見付かるものでしょうか」

「そんな風に言ってたら絶対見付からないよ、ナナちゃん!」

「よーっし、未分類魔法クラフト部! これよりナハマ空洞の探索を始めますっ!」




 というわけで、空洞探索が始まった。

 ワドルクさんもミルレーンさんも特に止めようとはせず、どこかへ行ってしまった。


「……にしても、本当に広いなぁ」


 壁に灯りが取り付けられているけど……空洞はかなり奥の方まで続いている。

 街が一つ入ると言われるくらい広いのに、闇雲に探したところで見付かりっこない。

 そもそもここは、すでに多くの探検家が調べ尽くしている。今さら新しい部屋が見付かるとも考えにくい。


 ……でも、騎士長が動くほどだ。ハッキリした根拠はないと言っていたけど、再度捜索をしようと考えるほどの、なにかがあったんだ。

 そう考えて、私もちょっとドキドキしながら探し始めたけど……やはり簡単にはいかないな。


「クラリー、ちょっといい?」

「ん……なにかあった? サキ」

「そうじゃないんだけど、あなたの……」

「クラちゃんの力を借りたいなーって思って」

「私の?」


 サキだけじゃなくて、チルトも後ろから顔を出す。

 それで、アイリンとナナシュも集まってきた。


「なになに? なにかわかったの?」

「クラリーに、見てもらおうと思ったのよ。マナの動きを」

「マナの……。そっか、その手があった」


 私は人よりもマナの動きがわかるらしい。それで空洞の壁を見れば、もしかしたら……。


「やってみる。えーっと……」


 マナの動き。常に細かい動きを感じているわけじゃない。普段は窓を閉じて見えすぎないようにしている。

 その窓を、そっと。開いていく。感覚を広げていく。しっかり見る。すると……。


「うーん……」

「ど、どう? クラリーちゃん?」

「よく、わからない。壁の中、マナが走ってるように見えるけど……全体的にそうっぽい。どこをみてもマナが走ってる。普段気付いてなかったけど、山ってこういうものなのかな?」


 外でもやってみればよかった。そうすれば違いがわかったんだけど。

 感じるマナの動きは、山頂に登っていくものもあれば、落ちていくものもある。だけどそこに不自然な流れはないように思う。


「クラリー、山全体にマナが流れているのよね? …………注視しても、あたしには見えないわ。やっぱりクラリーの目は特別なのね」

「え……そうなの?」


 詳細に見えなくても、マナが流れていることは他の人でもわかるんだと思ったのに。

 でも確かに、山の中にマナが流れてるなんて聞いたことがなかった。

 これってもしかして大発見?


「でもおかしなところはないのよね? もしかしたらと思ったんだけど……」

「だめかー。じゃあ上の方も調べないとかな。魔剣で飛んでみるよー」

「ちょっとチル、一人で調べるつもり? 何時間……いえ、何日かかるのよ」

「……待って」


 チルトが魔剣を使った瞬間。

 奥の方で……ぐにゃりと、マナが大きく動いたのを感じた。


「向こう、なにかあるかも。魔剣に反応したように見えた……。チルト、魔剣発動したままにしておいて」

「わかった! サキ、肩掴むよー」

「いいわ。行きましょ」

「なんかワクワクするね!」

「ほ、本当に見付けてしまったら、どうしましょう……!」


 私たちは壁沿いに歩いて行く。

 マナがうねり続けているから、場所はすぐにわかった。

 近付いて行くにつれてその動きがハッキリ見えるようになり……。


「な、なにこれ?」

「ふお? どうしたの? クラリーちゃん!」

「……うぅ、なんかグチャグチャしてる」


 マナの流れが速くなったり遅くなったりしている。しかも大きな流れと細かい流れがいくつも複雑に絡み合い、流れを辿ることができない。もうなにがどうなってるのかよくわからない。これが自然にできた流れなのかどうかも。それに……。


「……ごめん、ちょっと気持ち悪くなってきた」

「クラリー? 大丈夫ですか?」

「うん。これ見てたら、なんか……」

「この岩に座ってください」

「ありがと、ナナシュ」


 目が回ってしまったのか気分が悪くなってしまった。感覚の窓を閉じて、岩に腰掛ける。


「クラちゃん、水あるよ。飲んで」

「うん…………ぷはっ。ありがと、チルト」


 チルトが差し出してくれた水筒を受け取り、水を飲む。少しすっきりした。


「ちょっと大丈夫? クラリー。もしかして見えすぎて気持ち悪くなった?」

「……そんな感じ」

「そう。ここのマナは大きい流れなの?」

「うーん、大きいのと小さいのがあるかな……。入り乱れてる」

「なるほど。だったら、あたしの出番かもしれないわ」


 サキはそう言うと、上着のポケットから眼鏡を取り出す。

 片目だけの眼鏡。モノクルだ。


「それ、一学期に作ってた魔法道具?」

「そうよ。あれからちょっと改造したの」


 サキはモノクルを左目に付ける。

 見た目は前に見た時と変わってない。付いている宝石も同じに見えるけど……。


「ここの壁ね。確かに中にマナがあるわ」

「えっ!? 見えるの? さっきは見えないって……」

「このモノクルのおかげよ。レンズを改造したの」

「まさか……マナを見えるように?」

「ええ。クラリーだけ見えてるなんて、悔しいでしょ? もっとも……山を流れるマナはやっぱり見えない。ここの壁は特殊な流れなのね。ぼんやりと見えるわ。……ふう。このレンズまだまだね」

「いやいやいや、すごいよそれ」


 マナの動きを見えるようにするレンズなんて……すごいの作ったな、サキ。


「さ、サキちゃん! わ、わたしにも、それ、それっ!」

「付けてみたい? いいわよ。はい、アイリン」

「やったっ! ありがと!」


 アイリンが真っ先に飛びついた。

 マナの動きを感じるのが苦手なアイリンが付けるとどうなるか、私も気になる。


「ふおおお! ほんとだー! すごーくうっすらとだけど見えるよー! そっか、これがマナの動きなんだね!」


 むちゃくちゃ感動している。サキほどは見えないみたいだけど、それでも嬉しいんだろう。


「サキちゃん。これ曇ってるんじゃなくて、レンズが白いんだよね?」

「ええ。実はスマート鉱石の粉末がレンズに含まれているの。それでちょっと濁ってしまうのよ」

「へぇー! そうなんだぁ」

「さ、アイリン。そろそろ返して。本題に入るわよ」

「ふわぁ……。ありがとうサキちゃん。本題って?」


 サキはアイリンからモノクルを返してもらうと、再び自分の目に付ける。


「あたしがこれで見てみるのよ」

「あ……そっか。サキにはこの壁、どう見える?」


 さっき、ぼんやりと見えると言っていた。私みたいにハッキリ見えないなら、ずっと見ていても気持ち悪くなったりはしないかも。


「大きな渦を巻いてるわね。中心は……ここ」


 サキが壁の一点を指さす。マナが渦巻く場所の、中心。

 私には細かい流れが邪魔してわからなかったけど、大きなものだけ見れば渦になっているんだ。


「ね、クラリーちゃん。壁のマナの動きがおかしくなったのって、チルちゃんが魔剣を発動した時からなんだよね?」

「うん、そうだよ」

「だったら、その渦の中心に魔剣を当てたらどうなるかな?」

「アイちゃんそれだ! やってみよう!」

「あっ、ちょっと、ミルレーンさん呼んでからの方が……あ」


 制止するも、チルトは素早く壁に駆け寄って魔剣の先を壁に当ててしまう。すると……。


 ブゥオン――


 意識を広げなくてもわかった。マナが、魔剣を中心に広がって壁の中を走る。そして、


 ガシャン。


 金属がぶつかるような音がして、目の前の壁が後ろにへこみ、左右に開いた。

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