94「ナハマ空洞」クランリーテ
ナハマ空洞。
麓にある洞窟が入口になっていて、ゴツゴツした岩の坂を10分ほど下りていくと……突然、巨大な空間が現れる。
「広っ……! 話には聞いてたけど、こんなに広いんだ……」
「ふおぉぉ! すごいね? ほんとに街が入っちゃうよ!」
「上も暗くて見えないわね。相当高いわよ」
「それよりも見てください。エリクの花が咲いていますっ。高級な薬の素材ですよ、それがこんなにたくさん……。あ、ここにも薬草リジェが生えるんですね。興味深いです!」
「あははー。ナナちゃんが一番興奮してるねー」
岩と岩の隙間に色んな草や花が生えている。これらが薬草になるのなら、ナナシュが興奮するのもわかる。
「ね、チルちゃん! 天井にスマート鉱石があるんだよね?」
「そうだよー。取ってきてあげるよ。今のボクなら時間もかからないしね。サキ、下から照らしてくれる?」
「いいわよ。照らせ、闇を払う光よ。ロングライト」
サキが天井に向けて光属性魔法を使う。真っ直ぐに光りが伸び、暗くて見えなかった天井が照らされる。
ちなみに、光属性も四大属性魔法の派生ということになっている。火と水の応用だ。
でもそれで納得しない人たちがいて、四属性に光属性を加えた五大属性にするべきという主張をしている。しかし長いこと議論されているけど、その主張は受け入れられていない。
私はそれよりも、回復魔法を別系統として認めるのが先だと思うんだけど……。
「じゃ、行ってくるね」
チルトが魔剣を抜くと、その体がふわっと浮いた。
自分を浮かせるだけで、飛行はできない。ゆっくりとしか上昇できないから天井まで時間がかかると、前は話していた。でも今は、
バシュッ!
チルトの足下で風が起こり、一気に飛び上がった。
一瞬だけ魔剣の魔法を解いて、風属性魔法を使う。その風で上昇するという移動手段を、チルトは一学期に編み出していた。
何度かそれを繰り返し、チルトは天井に辿り着いた。よく見えないけど、たぶん普通のナイフで、ガツガツと石を削っている?
「オッケー、降りるよー」
「え……うわっ!」
急落下するチルト。思わず声を上げてしまったけど――――ふわり、私たちの頭の上でチルトが停止した。魔剣を発動させたんだ。
「ただいまー。クラちゃんビックリしすぎ」
「……ついだよ、つい」
「わ、私も驚いちゃったよ」
「わたしも~……」
魔剣があるとわかっていても、あのスピードで落ちて来られたら誰だって驚くよ。まったく。
「へへへ、ごめんごめん。はいアイちゃん。スマート鉱石取ってきたよ。とりあえず一個だけど」
「ありがとー! おぉぉぉ! これが、もぎたて新鮮なスマート鉱石!」
「……石にもぎたても新鮮も無いでしょ」
「なんとなくだよ~」
私たちがそんなやり取りをしていると、
「ハッハッハ! 見事な手並みだ。やるなぁ嬢ちゃん」
パンパンパン! 大きな拍手と大声に、驚いて振り返る。
さっきも似たようなことがあったけど……。
そこに立っていたのも同じ人だった。
大柄で、焦げ茶色の髪の男の人。さっきのお店にいた人だ。なにより目立つのはモミアゲから口元までびっしり覆われた髭。だけど顔は若々しいから……たぶん40歳くらい?
そして――その隣りに立つ女性を見て、私は目を見開いた。
「先日はどうも。魔法学校の生徒たち」
「えっと、ミルレーンさん……?」
「いかにも。ミルレーン・メインフィルだ。覚えていてくれたか」
魔法騎士団、第四隊隊長。
青い長髪を束ねているのは変わらないけど、今日は銀の鎧もマントも付けていない。白いパンツに黒いシャツ、茶色のベストという軽装だ。
「ミルレーンさん、どうしてここに? それに……」
私はチラチラと隣りにいる大柄な男の人を見てしまう。
恋人……ではない、よね。ミルレーンさんはまだ20代だよね。
でも年の差カップルの可能性もある。
「ミルレーンさん、もしかして今日は休暇ですか?」
「ん? いや、普通に魔法騎士の仕事だが……。クランリーテ・カルテルト、まさかとは思うが変な誤解をしていないだろうな?」
「えっ! あ、そのっ、ええと!」
「がっはっは! ミルレーン、話し方が固いぞ! ビビっているじゃあないか!」
「っ! そんなことはありません。これが普通です」
私はアイリンたちと顔を見合わせる。みんなビビってはいないけど、驚いてはいた。
ていうか結局この男の人はいったい? やっぱりカップルではないみたいだけど。
「はぁ……。紹介しよう。この方はワドルク・ワイズバーン。魔法騎士団の騎士長だ」
「き、騎士長?」
「それって、隊長のその上ってことよね?」
「ミルレーンさんより偉いってこと?」
「確かに偉そうだよねー」
「チ、チルトちゃん、言い方っ」
「ふははははは! 構わん構わん。こいつがかたっ苦しいのが悪いんだ。気にするな」
「ですからっ。いつも言っていますが、ワドルクさんが砕け過ぎなんです」
この人が、魔法騎士団の長。
なんか想像と違うけど……でも、なんでだろう。らしいと思ってしまう雰囲気がある。
なにがあっても動じなさそうだ。
「で、オレたちがここにいる理由だったか? それはな、実はこのナハマ空洞に――」
私たちは、その話を聞き……。
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