93「お昼はみんなで」クランリーテ


 麓まで戻ってくると、もう随分と陽が高くなっていた。上でゆっくりし過ぎたかな。


「もうお昼だね~。どこで食べよっか?」

「……軽めなのがいいかな」

「ソフトクリーム食べちゃったからね」


 食べれなくはないけど、それほどお腹が空いているわけでもない。

 軽く……あそこのサンドイッチとかいいかも。

 なんて考えていると、


「あ! ナナちゃんたちみっけ!」


 今の声は――。

 私たちが揃って振り返ると、そこには。


「宿の方にいないから探したわよ。クラリー」


 駆け寄ってくるチルトと、その後ろを歩くサキの姿があった。

 そっか、もう二人が到着する時間だった。


「チルちゃん!」

「アイちゃん!」


 いぇーい! と、ハイタッチをする二人。テンション高い組が揃った。

 私とナナシュはサキに近寄る。


「サキちゃん、おつかれさまです」

「スツはどうだった?」

「その話は後よ。それよりお腹空いちゃったわ。お昼まだよね?」

「うん。どこで食べようかって話してたとこ」

「この辺りお店色々あるから……迷っちゃうね」

「なら、向こうに良さそうなお店があったわ。そこにしましょ。話も、そこでね」

「うん、わかった。そうしよう」


 なんだか……サキがいつもよりちょっと落ち着いた感じがする。

 スツに行って色々思うところがあったのかな。


 私たちはサキの後についてお店に向かう。

 なに屋さんだろう? 軽めのメニューがあるお店だといいんだけど……。



                  *



 ――ドン!


「お待ちどお! ローストビーフとサラダの盛り合わせだよ。パンとスープはおかわりできるからね、足りなかったら言うんだよ」


 丸いテーブルの中央にドンと置かれた山盛りのサラダと、同じく山盛りのローストビーフ。その隣には丸いパンがこれまた山のように積まれている。


「こ、これは……」

「すごいわね! 食べる分を取っていきましょ」

「このお店、一度入ってみたかったんだよねー。一人じゃなかなか入れないからさ」


 サキとチルトはそう言って取り皿に肉とサラダを盛っていく。

 まさかこういうお店とは。ぜんぜん軽くないのがでてきた。でも……。


「……美味しそうですね」

「うん……」

「いただきま~す!」


 いつの間にかアイリンも自分の分を取っていて食べ始めている。その姿を見て、私はナナシュと頷き合いフォークを握りしめた。


 店に入る時はそれほどお腹は空いていなかったけど。

 こんな美味しそうな肉が山盛りになっているのを見たら、食べたくなるに決まってる!


 サラダと一緒にローストビーフを食べ、パンを食べ、スープを啜り、また肉へ。

 あぁ、こんな豪快な料理初めてだけど……いいなぁこういうのも。


 初めは一気に肉が減っていったけど、だんだんゆっくりになっていく。

 でもこのペースならたぶん残らない。パンのおかわりはさすがにいらないかな。スープだけもう一杯いただいた。


「それでそれで? サキちゃん。スツはどうだった?」

「ん……。どう、と言われてもね。ずっと行ってなかったけど、お祖父ちゃんとお祖母ちゃんは元気で、良くしてくれたわ」

「ていうかすっごく喜んでたよねー」

「三夜の御霊送りには間に合わなかったけど、ひいお祖母ちゃんのお墓に行って……。私は知らなかったんだけど、お墓にはソラの名前も一緒に書いてあったわ」

「……そっか」

「本当に今さらだけど。ごめんなさいって謝ってきたわ。今までずっと来なくて。ごめんなさいって」

「ボクも! サキのことはボクに任せて! って言ってきた!」

「……え、ちょっとチル? いつの間にそんなこと」

「おじいちゃんたちにも、よろしく頼むよぉうって言われちゃった」

「なっ……! いつよ、いつそんな話したのよー!」

「あはは……。でも、サキちゃんが元気になったみたいで良かったです」

「っ……。それは、その。……みんなのおかげよ」


 顔を赤くして、そっぽを向いてしまうサキ。

 私たちは顔を見合わせて、こっそり笑い合った。

 落ち着いたって思ったけど、こういうところはやっぱりサキだ。



 ――ドン!


「お待ちどお! ローストビーフとサラダの盛り合わせー」

「おぉ、きたきたぁ! ナハマに来たらこれを食べないとな!」


 突然そんな大声が聞こえて、ビクッとして思わず振り返る。


 奥のテーブルに大柄な男の人の背中。テーブルには私たちと同じ料理が置かれていた。もう一人向こう側に誰かいるみたいだけど、二人であの量を食べるんだろうか。


(……あれ? よく見えないけど、向こう側にいる人、どこかで……?)


「クラリーちゃん、そろそろお肉なくなっちゃうよ~?」

「あ、最後に一枚食べる」


 まぁいっか。私は無くなる前にローストビーフをお皿に取る。

 一枚だけのつもりだったのに……つい、二枚取ってしまった。

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