88「黒猫のソラ」サキ


「……そっか、それでサキだけ家に残ってるんだ」


 みんなを家の中に入れて、スツでのことを全部話した。

 最後まで黙って聞いてくれていたけど、クラリーが静かにそう言うと、


「う、う、うぅ、サキちゃぁぁぁん! うわぁぁん!」

「ちょ、アイリン!?」


 がばっ! 突然アイリンが抱きついてきて――そのまま泣き出してしまう。


「ごめんなさい、私も、少し……」


 ナナシュも顔を背けて目元を拭った。クラリーも目が潤んでいる。

 みんな、あたしの話で……?

 居間の入口で立ったまま聞いていたチルは、いつの間にか背中を向けていて顔がわからなかった。


「そんな悲しいことがあったなんて、辛すぎるよ~」

「……ありがと。ほら、顔拭いて、一旦離れなさい」


 あたしは部屋の隅に手を伸ばし、ティッシュを取ってアイリンの顔を拭いてあげる。するとティッシュを奪ってチーン! と鼻をかみ、やっと離れてくれた。


「ねぇ……サキ。一つ聞いてもいい?」

「もう全部話したわよ? クラリー」

「うん。そうなんだけど、その……黒猫のソラは、何歳くらいだったの?」

「……え? それは……」



『この子もおばあちゃんだからねぇ』

『そうなの? ひいばあちゃんよりも?』

『ほほっ……。ばあちゃんよりは若いわ。ばあちゃんはひいばあちゃんだからねぇ』



 すぐに、ひいお祖母ちゃんとの会話が過る。

 いつからだろう。このことを考えると、最初にこの会話を思い出すようになっていた。

 何故なら……。


 あぁ、クラリー。あなたが言いたいこと……あたし、本当は……。


「この間、ユミリアから聞いたんだ。猫の寿命って15歳くらいだって」

「や……やめて」


 わかってる。小さい頃は知らなかったけど、猫の寿命くらいとっくに調べてる。

 ソラはあたしが生まれる前からいた。ひいお祖母ちゃんの側にいた。

 だからきっと、ソラは……。


「もう、寿命だったんじゃないかな。だから……」


 わかってる。スツではよく話されていることだ。

 猫は死が近付くと、自らいなくなってしまう。

 自らの死に場所を探すように。選ぶように。飼い主の前からいなくなってしまうと。

 ソラは長生きで、賢い猫だったから。

 選んだんだ。あたしじゃなくて――


「迷惑をかけたくなかった。……ううん、それだけじゃない。きっと最後まで」

「――ひいばあちゃんの、側に」


 わかってる……本当はもう、わかっていた。

 ソラは、ひいお祖母ちゃんが大好きだったから。


「ソラ……ひいばあちゃん……ごめん、ごめんなさい……ひぐっ、うぅ……うえぇぇぇん!」


 あたしは堪えきれず、子供のように泣き出してしまった。

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