87「みんながそこにいた」サキ
「サーキーちゃぁーん! いるんでしょー!」
「アイリン、あんまり強く扉を叩いたらだめだよ」
「そうだよ、壊してしまいますよ」
「……ああもう、今出るから待ちなさいよっ」
ドンドンと扉を叩いているのはアイリンね。
クラリーとナナシュ。それからチルも一緒にいる。
みんなで来たの? なんで、どうして?
なんて思いながらも、予想はついている。
あたしは目元を拭って深呼吸をしてから、扉を開けた。
「開いた! サキちゃん!」
「サキ……灯りもつけないでなにしてたの?」
「そうです。心配しましたよ」
「い、いいでしょ別に。……こんな時間にどうしたのよ?」
三人の後ろにいるチルに目を向ける。
珍しく、申し訳なさそうな顔をしていた。
スツでのことはチルにも話していないから、それを聞いてここに来たわけじゃないはずだけど……。
真ん中にいたクラリーが、みんなを代表するように口を開く。
「サキ。チルトから聞いたんだけど、サキのお父さん、スツ出身なんだって?」
「え? え、えぇ……そうよ」
なるほど、チルはそれをバラしたことを気にしているのね。
別にそれだけだったら構わないのに……。
「この時期になるとサキは塞ぎ込んでしまう。昔、スツでなにかあったみたいだって」
「それは……」
チルには本当になにも話していない。でも……当然よね。毎年スツに行っていたのに、急に行かなくなれば向こうでなにかあったんだってわかる。会わないようにしていても――ううん、会わなくなるからこそ、落ち込んでいることがバレてしまう。
「スツでなにがあったのか、私たちに教えてくれない?」
「…………」
それは……。
「……あのさ、サキ」
あたしが黙ってしまうと、後ろに立ったチルが……これも珍しく、真剣な顔であたしの目を見る。
「スツでのこと、ボクも詳しく知らない。サキ、話してくれなかったから。
きっとすごく傷付くようなことがあって、それを毎年思い出して悲しんでるんだって思った。だから……だから、ずっと聞けなかったよ。
これでもスツの話題には気を遣ってたんだよ? 特にユミちゃんと出会ってからね」
「チル……」
そっか、父さんがスツ出身なのをチルが黙っていたのは……。
ユミリアと、スツの話をすることになってしまうから。
あたしも無意識に隠していた気がする。
スツに行ったことがあること。本当は猫について詳しいこと。
ヨリを探す時、内心すごく必死だったことも。
ユミリアとスツの話をすれば、時期に関係無く、あの時のことを思い出してしまうから。
「さあ、サキ。話してくれるまで、私たち帰らないよ」
クラリーが腕を組んで立ち、アイリンがそれを真似する。ナナシュは扉を閉められないように手で押さえている。
「……もう、仕方ないわね」
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