86「守れなかった約束」サキ


「……ごめんなさい……」


 気が付くと、辺りが暗くなっていた。すっかり日が落ちている。

 どうやらテーブルに突っ伏したまま寝てしまったようだ。

 晩御飯の支度、しなきゃ……。

 そう思うのに、立ち上がれなかった。身体が重くて動かない。


 チリーン……。


 この風鈴の音のせいかな。あの時の夢を見てしまった。


 ひいお祖母ちゃんが死んで、ソラもいなくなって……。

 あたしはスツに行かなくなった。


 ひいお祖母ちゃんとの約束を守れなかったから。


 結局、最後にソラを見たのはあたしだった。

 ひい婆ちゃんの部屋に、あの庭に、ソラはいたのに。

 あの時、捕まえていれば。庭に飛び出して、抱きかかえていれば。

 城下町に連れ帰って、ずっと一緒にいられたのに……!


 ごめんなさい。最後の約束だったのに。

 ひいお祖母ちゃんに顔を合わせられない。


 八の月のこの時期になると、いつもこのことを思い出してしまって。

 気持ちが落ち込んでしまう。だからなるべく外には出ない。チルにも会わないようにしている。

 ……あぁでも、今年はどうしても我慢ができなくなって、ユミリアの飼い猫ヨリに会いに行った。でも余計にソラのことを思い出して、家に帰ってから辛くなってしまった。


 こんなあたし、みんなには見せられない。声も聞かせられない。


 もうすぐ父さんと母さんが帰ってくるから。

 三夜の御霊送りが終われば、あたしも元通り。

 だから、それまでは……。


 そう思っていたのに。なんで、どうして――



「サキちゃーん、いるー?」

「灯りがついていませんね……出かけてるのかな」

「たぶん家にいると思うんだけどなー……」

「サキ? いるなら返事して」



 ――どうして、みんなの声が聞こえてくるの?

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