クラフト13 黒猫ソラと約束

83「この時期になると」クランリーテ


「無性にかき氷が食べたい! ってなったことない?」


 八の月の真ん中。その日の夜も、いつものようにテレフォリングで通話魔法。


「わかるー。ボクは今食べたいよー」

「私もわかります。こう暑い日が続くと……ね」

「まぁ、無性にってほどではないけど、冷たい物は欲しくなるかな」

「クラちゃんなら自分で作れるんじゃない? かき氷」

「え、そうなの? どうやって!?」

「作れるけど……。水を凍らせて風属性魔法で削っていくんだよ」

「ふおおお、すごい! いいなぁ」

「やっぱりね。たまにサキがそうやって作ってくれるからさー。でも削るのが難しいんだっけ? サキ」

「……ええ、そうね」

「……? 確かに、風魔法のコントロールが必要かも」

「それなら私にもできるかな……。今度ニニアに作ってあげたい」

「いいね! ニニアちゃん喜ぶだろうな~」

「じゃあ今度やり方教えるよ」

「うん、お願いします。クラリー」

「それわたしも参加したい! 楽しみだな~かき氷! ……って、そうじゃなかった! わたしがいま無性に食べたいのは違うんだよ!」

「アイリン、結局いま食べたいの?」

「実はそうなんだけど今すぐは無理だから早ければいつでも構わない! わたしが食べたいのはね、天然の氷を使ったシャリシャリの天然かき氷だよ!!」

「天然のかき氷……?」

「クラリーちゃん知らないの? アカサ王国の氷結湖から切り出した氷を魔法で冷やしながら運搬、保管して夏にかき氷にするんだよ!」

「へぇ……。それはなんか、美味しそうな気がするね」

「美味しいんだよ! クラリーちゃん! 城下町に食べられるお店があるからみんなで行こう! って、誘おうと思ってたんだけど……」

「だけど?」

「今年の分はもう売り切れてるんだって……くすん」

「あー、流行ってたからねー」

「そういえば行列のできているお店がありました。あそこがそうだったのかな……」

「なるほど。残念だったね、アイリン」

「諦められないよっ。わたしはいま無性に食べたいんだよ~。助けて! クラリーちゃん!」

「いや、そう言われても……。水道水のかき氷は作れるから、それで我慢してとしか」

「う、う、うぅぅぅ~……来年まで待つしかないのかな~」

「んー、そういえばナハマ空洞に行った時、山の麓に天然氷のかき氷食べられるお店があったよ」

「えっ! ほんと? チルちゃん!」

「入ったことないから、どこの氷を使ってるのかはわからないけどねー」

「よし! じゃあ今度ナハマ空洞に行ってくる!」

「……あそこ、バスで一日かかるよ。ね、チルト」

「うん。日帰りできなくはないけど、かなり強行軍になるかなー」

「あぁ~、そっかぁ。泊まりじゃないと厳しいよねぇ」


 そんな感じでみんなで話していたんだけど、私はさっきから気になっていることがあった。会話が一段落するのを待って、


「サキ。今日はあんまり喋らないね」

「あ、そういえば!」

「……え、あたし? ……そう?」


 遅れて反応するサキ。

 通話魔法だから顔は見えないけど、心ここにあらずという感じだ。


「あー、サキは……」

「サキちゃん、どこか具合が悪いのですか?」

「……ごめん。体調は悪くないわ。でも、そうね。あたし今日はこの辺にしとく。またね」

「え? サキ?」


 そう言って、サキは返事をしなくなってしまう。魔法を……テレフォリングを外してしまったみたいだ。


「どうしたんだろ~……。かき氷の話のせい?」

「いやいや、そんなことないと思うけど」

「だったらどうしたんでしょう。暑いから夏バテとか……?」

「チルト、なにか知ってる?」

「ん~。どう言えばいいのかなー。サキはいつもこのくらいの時期になると、ああなっちゃうんだよ」

「このくらいの時期? どういうこと?」

「詳しくはボクも知らないよ。でもしばらくすると元に戻るから。気にしなくて大丈夫」


 チルトはそう言うけど……なんだか気になるな。


「そういえば今日、街でユミリアちゃんに会ったんです。そしたら昨日、サキちゃんが訪ねて来たって言ってたよ」

「……え? サキがユミちゃんとこに? な、なにしに?」

「うん。ヨリちゃんに会いに来たみたい」

「サキちゃんずるい! わたしも行きたかった!」


 ユミリアが飼っている、白猫のヨリ。

 そういえばあれから会っていない。

 あのさらさらな毛並みはもう一度撫でてみたいと思うけど……。


「チルトも知らなかったってことは、一人で行ったってことだよね」

「誘ってくれたらよかったのに~。サキちゃんそんなに猫が好きだったんだ」

「まー、サキって実は――あっ、なんでもない」

「え、実は、なに? そこで止めないでよチルト」

「そうだよー。チルちゃん!」

「う、うぅ、しまったなぁボクとしたことが……。でもほら、サキのことだから勝手には言えないよ。ごめんね!」

「む……むぅ」


 そう言われてしまうと、無理に聞けなくなってしまう。すごく気になるけど。


「ま、明日にはサキも元通り元気になってるかもだしさー。大丈夫大丈夫。いつものことだから!」



 誤魔化すようにチルトはそう言ったけど。

 次の日の夜、サキは通話魔法に入ってこなかった。

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