81「マナの流れ」クランリーテ


 チルトの周りで、マナがシュッと素早く収縮した。

 奥にいるサキの辺りでは、綺麗な渦を巻いてマナが吸収されていく。


 わかる。魔法を使おうとする瞬間がわかる。


 あぁ、あの二人だけじゃない。視界の外、右の方でマナが小刻みに吸収されていく。これはナナシュ? それからパッと消えるようにしてマナが吸収された。アイリン?


 私は今、マナの動きを感じている! しかも――。


「……ユミリア、チルトを狙って」

「わかりました」


 指示をして、私も左手を掲げる。


「クラちゃんの魔法は当たらないよー。……あれ?」

「まずいわ。チル、下がって!」

「おぉ? なにこれ――ぶわっ!」


 前に出ようとしていたチルトが後方に流されていく。


 ……上手くいった。

 左手を挙げたのはフェイク。水中に残した右手で魔法を発動、チルトの泳ぐ先に、新たな水の流れを作ったのだ。

 全体を操作しようとするサキとは違う。ピンポイントに、強引に押し流す。


「さすがですね。蒼の水槍!」

「な、なんのーっ!」


 流されるチルトは咄嗟に風魔法で水面から飛び上がる。

 だけどそこに、


「チルちゃん! えいっ!」

「わ、おぶっ!!」


 ユミリアの魔法を複製したアイリンが、見事にチルトに水を当てた。

 ばしゃーん! 派手な音を立ててチルトが水中に落ちる。


「チル! ……やるわね、三人とも。でもあたしだって負けないわよ!」


 サキが魔法を使う。水流操作。これは……。


 水中で、マナが収縮し。


 ザバァァァッ!!


 すぐ横で勢いよく水が持ち上がった。さっきのサキの魔法――だけじゃない!


「クラちゃんもらったー!! ――あ、あれ?」


 水が持ち上がると、さらにそこからチルトが飛び出した。

 だけど私も同じように足下の水を持ち上げ、ジャンプ、チルトの上を取っていた。


 わかっていたから。チルトがマナを吸収し、サキに合わせて魔法を使うのが。


 どこにいるかわからなくても、目を向けていなくても。

 私は……マナの流れを感じることができる!


「チルト。残念だった、ねっ!」


 両手を挙げて大きな水の塊を創り出す。

 そしてそれを、チルトめがけて振り下ろした。


「ちょ、まったクラちゃぶわぁぁぁっ!!」


 どっぱーーーーん!!


 チルトを落として……私も一緒に水中に落ちた。

 よし、これでこっちのリードだ。

 私は急いで水面に顔を出して、サキの方を見る。


「チル! 待って、いま助けるわ――」

「だめですよ、サキさん」

「ゆ、ユミリア? いつの間にこんな近く――ぶはっ!」


 ユミリアの接近にサキが気が付くと同時に。その顔に思いっきり水がかけられた。


「チルトさんが、サキさんを狙わせないようにしていた理由がわかりました」

「え、えぇ? それは、その――」

「水流操作のような繊細な魔法、動きながら使うことができません。つまり……クラリーさん同様、サキさんも動けなかったのですね」

「っ――! そうよ! その通りよ!」

「よかった。では、私たちの勝ち、ということでいいですね」

「く、く、くやしいぃ~!」


 すごいな。ユミリアって頭もいいんだ……。

 そんなことをプカプカ浮かびながら思っていると――。


 ぞわっ。


 右の方で、広範囲のマナがごそっと無くなるのを感じた。


「なっ、いまの、誰?」


 見ると、そこにはニニアちゃんを抱きかかえたナナシュと、手前にアイリン。

 三人のうち誰かがマナを大量に吸収した。

 いまのマナの吸収の仕方はアイリンじゃない。ナナシュも違うはずだけど……。


「ほんとにいいの? お姉ちゃん」

「大丈夫だよ。私がコントロールするから」

「わかった! じゃあ全力でいくねー!」


 ……え、まさかニニアちゃん?


 ずおおおぉぉぉ……。

 プールの水が急激に減っていき、右手を掲げたニニアちゃんの頭上に集まっていく――。


「いきますよーみなさん! ラース・オブ・ウォーター!!」


「う…………うわぁぁぁ!!」


 ドバーーーーー!!!


 ニニアちゃんたち以外の全員の頭の上に、どしゃぶりのような雨が降り注いだ。


「……よかった、雨みたいにできて」

「やったーできたー! お姉ちゃんのおかげだよー!」

「な、なに、これっ! ナナシュ?」


 天井近くに水の塊が浮かんでいる。あれが雨を降らせているんだ。


「ニニアは普通の人よりマナを多く吸収できるみたいなの。でもコントロールが全然できないから、私が代わりにね」

「えぇ? そうだったの?」


 確かに、コントロールが不慣れとは聞いたけど、魔法が使えないとは一言も言ってない。

 でもそれがこういう意味だとは普通思わないよ!


「これで私たちの勝ちだよね? クラリー」

「……うん、もうそれでいいよ」


 負けを認めたところで、ようやく天井の水がなくなり。雨が止んだのだった。

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