79「友だちと遊ぼう」クランリーテ


「アイリンさん、勝負です!」

「負けないよー、ニニアちゃん!」

「じゃあ私が判定するね。よーい……スタート!」


 ぶくぶくぶく………………。


「ぷはぁ!」

「っぱぁ! おねーちゃん、どっちだった?」

「うーん……ちょっとだけアイリンちゃんの方が出て来るの早かったかな」

「やったー! 勝ちましたー!」

「がーん、ま、け、た……本気でやったのにぃ」


 アイリンとニニアがプールに潜って息を止め勝負をしているのを、私はプールサイドで眺めていた。


「なんていうか……ニニアちゃん順応早いなぁ」

「そうですね。あまり物怖じしないようです」


 私の呟きに、隣で一緒に見ていたユミリアが応えてくれる。

 そう、物怖じしない。今日だってクラフト部のメンバーはみんな初対面だったのに。すっかり打ち解けている。こっちの懐にするっと入ってくる感じだ。

 ナナシュの話だといま小学五年生だと言うし。子供の無邪気さ故なのかな。


「ニニアはね、要領がいいの」

「ナナシュ」


 ニニアの相手をアイリンに任せたのか、ナナシュがプールから上がって私たちの方にやって来た。


「友だちいっぱいいるみたいだし、親戚の大人にも可愛がられてて……。とにかく誰とでも仲良くなっちゃう子なの」

「へぇ、すごいね」

「いわゆるコミュニケーション能力が高いのですね」


 そういえばさっき、すれ違った女の人に挨拶をしていた。大人で歳も離れていたと思うけど、あの人も仲良くなった人だったのかな……?


「この夏から店番も手伝ってもらってるんだけど、お客さんとすぐに仲良くなって。もう私が店番しなくてもいいのかも」

「そんなことはないんじゃない? ナナシュはすごく親身になって薬を選んでくれるし、お客さんからの評判もいいはずだよ」


 だからこそ、私はナナシュと友だちになれたんだし。

 この優しい女の子に、何度助けられたか……本人はわかっているのかな。


「だからナナシュには店番続けて欲しいな」

「……ありがとう、クラリー」

「それに薬の知識はナナシュのが詳しいでしょ?」

「あ、それはもちろん。薬作りもね。ふふっ」


 そう言って笑うナナシュに、私も笑い返した。


「お二人は仲が良いのですね。少し羨ましく感じます」

「ユミリアは……そっか、巡業中は地元の友だちと遊べないんだよね」

「はい。普段も歌と魔法の練習があるので、友だち自体が少ないのです。劇団には歳の近い子もいません。だからみなさんのことが、羨ましく感じるんだと思います」

「羨ましがることなんてないよ、ユミリア。だって私たちはもう、えっと……」

「友だち。だよね? クラリー」

「……うん、そういうこと」

「っ……。ありがとうございます。そうですよね。ふふふ、今年はとてもいい夏です」


 私たちは顔を見合わせて笑い合う。

 友だちとプールにでかけて、遊んで、笑って。

 いい夏、か。確かにそうかも。



「――っっっきゃぁぁぁぁああああああああっ!!!」



 なんて思ってると、突然絹を裂くような悲鳴が聞こえてビクッとする。同時に、



 どっっっぱあああああぁぁぁぁん!!



 近くの深いプールに派手な水しぶきが上がった。

 な、なに? ていうか今の悲鳴ってもしかして……。


「あっはははははははっ! スライダープールたのしー! ね、もう一回滑ろうよサキ!」

「あ、あは、あはははは……」


 チルトと……サキだ。悲鳴はサキの声だったと思う。

 二人の頭上には、上半分カットされた大きなパイプ。

 なるほど、あれの中を滑ってきたんだ。辿っていくとすごく高いところまで繋がっている。入園前に外から見えたのはこれか……。


「サキー? ほらもう一回行こうよー」

「あはは……い…………いや、いやよ! あれは人が乗るものじゃないわ……。もう二度と滑らない……」

「えー? そんなことないと思うけどなー」

「チルだけよ……。やだ、水着取れそう。もう……」


 サキはプールの端に寄ってビキニの紐を結び直している。うん、少なくともビキニで滑るものじゃないだろうなぁ。脱げちゃわなくてよかったね。


「スライダープール……。少し気になりますね」

「え、ユミリア? ――あっ! それよりあれなんかどう!?」


 ユミリアが滑りたいと言い出したら私たちも付き合うことになる。

 咄嗟に、半球状のガラス張りの建物を指さし……。


「クラリーさん。あれはなんですか?」

「……なんだろう?」


 なんの建物か私もわからなかった。首を傾げてナナシュを見ると、


「あれはね、水魔法シューティングドームだよ」


 名前を聞いても、やっぱりわからなかった。

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